中身のない会話
「鬱作品ってあるじゃん?」
いつも通りの昼下がり、リビングにノートパソコンを持ち込んでピコピコと弄っていたユウだが、急にこんな事を口にした。
「誰も救われずという結果になるものが多い作品かのう?」
「そうそう。
その中でも、可愛い絵柄や和やかな雰囲気に騙されてその世界に入ってみたら、徹底的に心を壊すような内容だった作品をハートフルとフルボッコをかけて、ハートフルボッコ作品って言うんだって」
少し昔にはユウが話すような内容の作品はかなり流行っており、安易に飛び込んでは心をズタボロにされてメンタルをやられると言うことも少なくなかったようである。
「ハートフルボッコは聞いたことがあるから分かるんじゃが……急にどうしたんじゃ?」
「いや〜なんでわざわざそんな試練に立ち向かうのかなって」
「メンタルはやられてしまうかもしれぬが、記憶に残る作品というものを見たいのではないのか?
王道とは違う道にしかない衝撃というものがあるのではないじゃろうか?」
例え心がズタボロにされると分かっていても、その苦い記憶の中にある消えない思い出を欲しているのかもしれない……単に視聴者の一部はドMだっただけかもしれないが。
「ゲームとかでも一定数以上の人気はあるもんね。
鬱ゲージャンルって」
「救いのないエンディングほど人の心に残ったりするものじゃからな。
魔女の館を彷徨うホラゲーなどは正にそうであったろう」
「あれの真エンドはどんでん返し過ぎるんだよね。
物語が始まった頃には既に全てが終わっていて、何をどうやっても救えないっていう無力感しかないもん」
「そういう無力感こそウケる要因なのかもしれぬな。
多分アレと同じじゃよ。
寝取られ作品が流行る理由と」
「いや、言いたいことは分かるけど、その発言はどうかと思うよ。
巫女さん辺りなら喜んで食いつきそうだけど」
目の前で行われていることに対する無力感としては、何の違いもありはしないかもしれないが、例えとして口に出すにはユウの話す通りにあんまりであろう。
しかし、マオには特に悪びれた様子もない。
「ここにはユウと妾しかおらぬのじゃから遠慮することもあるまい」
「まぁ、それもそうなんだけどね。
確かにジャンルとしては一定以上の需要もあるし、案外似てるのかもしれないね……この二つ」
「適当に話した割には良い例えであったな」
マオは満足そうに頷き、ユウもそこで一定の満足を得たのか、再び作業に戻るのであった。




