桜の季節にはやや早い 1
まだ冬の寒さが抜けきらない日の夕方、上野公園の前を通りがかった3人。
ユウとマオに加えて2人の家に世話になっている巫女……ではなく、お隣の響子である。
実は巫女は仕事の打ち合わせが全て終わり、ついでの東京観光も終わらせて地元である福岡へと帰っていった。
巫女がいる間は遠慮していた響子だが、彼女が帰郷した事で、こうして久しぶりに3人で出かけたという訳である。
「あれ?何かやってるんですかね」
響子が上野公園の入り口を指差すと、そこには提灯がずらりと飾られていた。
「ああ、もうそろそろ桜の季節だからじゃないかな」
「今年は開花が遅れておるようじゃがな」
「今年は全然暖かくならないもんね」
今年は梅雨と間違えそうなほどの雨の量に加えて、風も止まずに強風続きのせいか、一向に気温が上がらない日々が続いていた。
桜は気候の暖かさを感知して花が咲く仕組みになっているため、今年のように冬が長引くと中々満開とはいかないのである。
かくゆうユウ達も未だに冬服を着用しており、春用の服は未だにタンスの中に眠っている状態だった。
「でも、ここから見える限りでもそれなりに桜が綺麗ですよ」
「日が当たるところの気温は暖かいからね。
もうそろそろ冬服も終わりかな?」
「そうは言うても夜はまだまだ冷えるからのう。
中々手放せぬよ」
「相変わらず昼と夜の寒暖差が激しいですからね。
今日も10度以上ですよ」
そんな風に話しながらも、誰ともなく歩みは上野公園の方へと向かっていく。
入り口にある提灯で出来た壁を避けるようにして中へと進み、坂を登っていく。
ここで知らない人のために説明しておくと、上野公園はやや高い位置にあり、入り口から坂を登るか階段を登るかである。
隣接した建物のエレベーターの中には直接園内に繋がる物もあるので、足腰に自信がない人はそちらを調べてみるのも良いであろう。
「結構咲いているものですね」
「時期的にはすでに満開になっていてもおかしくないからね。
あちこちの提灯は夜になったら灯る感じかな?」
「夜桜を楽しめと言う事であろうな」
公園内では上を向くと、通路に沿うように提灯が張り巡らされている。
3人はまだ何とか明るさを保っている公園内を散策して、満開とは言えないものの、それなりに花が咲いている桜を楽しんでいく。
こうして一周回ったところで、折角なら夜桜も見てみようかと話しが決まり、一旦外に出て手近な場所でご飯を済ませることにしたのであった。




