特別なバットが欲しい 3
「あ、あれ?おっかしいなぁ……」
折れた銅の剣をまじまじと眺めながら首を傾げるユウ。
そんなユウに対して、マオはため息混じりに近づいていった。
「おかしいも何も……お主、剣の方に全く魔力が伝わっておらんかったぞ」
「え、うそ?
でも、ダミーはしっかり切れてるよ」
「お主の力と技量のおかげじゃな。
本来ならすごい話ではあるのじゃが……こと、今回の事例に関しては全く褒められた話では無いのう」
勇者としての戦いの経験から、鈍らでも金属を切り裂ける技術を持っていたユウ。
だが、魔力で強化されていない銅の剣はそんな使用方法に耐えられる訳もなく、当然の如く真っ二つに折れてしまったのである。
「あの〜のんびり話しているところ悪いんだけど、僕死にかけたんだけど」
「え?あのくらい風ならなんとか出来るでしょ」
「妾達が直々に鍛え上げておるのじゃから、あのくらいは自分で対処できて当然であろう」
「うう、確かにその通りだけど……厳しい!!」
「信頼の裏返しだと思ってくれたらいいんじゃ無いかな」
「そ、そうだね。
でも、なんで上手くいかなかったんだろう?」
「それは簡単じゃな。
ユウは魔力の操作があまり得意では無いからじゃよ」
「え、そうなの?」
「常に全力でぶっ放している戦い方をしてたから、細かく調整するのが苦手なんだよね。
ここで暇つぶしにやっている修行で多少はマシになったけどって感じかな」
「そうだったんだ……何でも出来そうな感じだったから意外かも」
「下手に温存して取りこぼすよりも、全力で殲滅して力を使い果たす前に撤退する方が確実だったからね」
「常に全力を出して撤退時期を見誤らぬ者ほど厄介なものは無いわい。
付け入る隙が全くないのじゃからな」
「なるほど……確かに変に舐めてかかってピンチになったことあるかも」
「風の場合はチーム組んでるから、誰か1人が崩されても周りがカバーしてくれるでしょ。
僕の場合は1人だったから」
懐かしそうに語るユウであったが、自身も多少なりとも戦いの心得がある風には、その言葉の重みを感じてしまった。
「まぁ、それが仇となって今は苦戦しておるんじゃから世の中は分からんもんじゃな。
ほれ、折角じゃから風に力の調整を教わったら良いのではないか?
いつもの師弟関係が逆転して面白いであろう」
「あ、それ良いね。
ほら、剣はいくらでもあるから風も持って持って」
「え、わわわ……仕方ないなぁ。
でも、僕の教え方が悪くても責任取らないからね」
「だいじょぶだいじょぶ。
絶対にマスターしてみせるから」
こうしていつもとは師弟の立場が逆転した2人。
数時間の修行の末に武器に魔力を通す事に成功したユウは、次の日、スポーツ用品店で手頃なバットを購入したのであった。




