特別なバットが欲しい 1
「バット良いよね」
ユウとマオが偶に行っている、今の世界と別の世界の間にある次元の狭間。
2人は身体が鈍らないようにと、時折この地に訪れては修行という名の運動をしていたのだが、この日はユウがいきなり上記のような発言をしていた。
「何じゃ、あのアニメの予告に感化されおったか?」
「まぁね〜でも、実際振るいやすそうじゃん」
「それなら買って試してみれば良いでは無いか」
「ああ、無理無理。
こういう場で使ったらバットの方が耐えられないって。
あ〜あ、どっかに頑丈なバット無いかな?」
以前の配信で話していた、悪党達が異世界で暴れるアニメの予告。
その主人公兼ヒロインがバットを振り回していたのを見てから、ユウもその振り心地が気になっていたのであった。
ただ、この世界にある素材で作られたバットをユウの力で振り回すと、それだけで耐えられずに粉砕する恐れがあるため、手近なスポーツ店で購入して試してみるという方法は取れなかったのである。
「バットならほれ、あの者が持っておったでは無いか」
「あの者……ああ、風が持ってたね!
早速呼び出してみよう」
風とは女子大生にして退魔士を生業としている4人組、花鳥風月の1人である。
以前、ルーナから受けた依頼がバッティングし、そこからの知り合いにして、偶に稽古をつける仲となっていた。
また、この縁がきっかけで彼女達は4人で一つのチャンネルを運営する形式でデビューしているのだが、学生と退魔士だけで忙しいので、中々配信の時間は取れないようである。
こうして風に連絡を取ったユウは、すぐに彼女をこの場へと招いたのであった。
「なんかよく分からずに呼び出されたけど、何があったの?」
「バットが欲しくって」
「バットなんてその辺りに売ってるでしょ」
「そういうのじゃなくて、風が持ってるみたいに頑丈なバットが欲しいんだよ。
それって普通の物じゃないでしょ?」
風は主にバットを振り回して直接妖怪に打撃を与えて対峙するスタイルで戦っている。
中には武器を用いる妖怪もいるのだが、その攻撃を弾いたり、時には妖気の塊を打ち返したりと明らかに普通のバットではなかったのだ。
「うーん、これは元々は子供の頃から愛用している普通のバットだったんだけどね。
長年使い続けた結果、付喪神が宿ってそこから色んなことが出来るようになったんだよ」




