月を見上げる蟻 1
綺麗なタイトルですが、単に入った店を表しているだけです。
「今日は急にキャンセルしてしまってすまんかったのう」
そう言って2人を出迎えたのは、本来はユウとプラネタリウムを見る予定だったマオであった。
コラボ配信の仕事を終えたマオはサッと準備をすると、2人と合流するべく待機していたのである。
「やっほ〜お店はどの辺り?」
「こっちじゃな」
着いた時に予め店の場所を把握しておいたマオ。
彼女の案内でやってきたのは、昨日も食べたモツ鍋のお店、その専門店であった。
「ここは博多モツ鍋の専門店なんですね」
「この間の居酒屋のが美味しかったからね。
専門店ならもっと美味しいんじゃないかと思って」
「この店は東京に数店舗、更にはバンコクにもお店を出しているという期待の店でのう。
それでいてお値段は庶民的という事で選んでみたんじゃな」
「あれ?本日は予約で席が埋まっているって案内がありますが……してます?」
「もちろんだよ。
初めて行く店で、どのくらいの人が入るか分からなかったからね」
「その辺りは流石ユウと言ったところじゃのう」
「マオちゃんが店を見つけて、ユウちゃんが予約したと。
実に素晴らしいコンビネーションですね」
「ははは、僕たちの息はピッタリだからね。
さ、入り口での無駄話はこれくらいにして中に入ろう」
ユウが入り口で予約していたことを伝えると、すんなりと席に案内される。
4人席用のテーブルに2:1で別れて座る。
「なんかオシャレな作りのテーブルだね」
「味のある造りと言うのでしょうか?」
テーブルの真ん中は四角い形に凹んでおり、そこには昔の日本絵画のような模様が書き込まれていた。
その中央は濃い丸が描かれており、誰もがここに鍋を置くことが想像できたのである。
「どれ、まずはメニューを見てみようかのう。
ふむ……鍋の出汁は複数あるようじゃが、メインは味噌か醤油みたいじゃな」
「本場の味なら醤油なんだっけ?」
「ええ、基本は醤油出汁ですね。
味噌も美味しそうだと思いますよ」
「まぁ、今日は醤油にして次に来る時は味噌にしよう。
巫女さんも次からこっちに来る時はうちに泊まるみたいだし」
「それもそうじゃな。
この仕事で人気を保っている内は東京に来ることも少なくないであろうからな」
打ち合わせ以外にもテレビやラジオの出演など、人気が出れば多数の仕事が舞い込んできて、直接現場に赴くことも少ない業界。
未だに人気の衰えない巫女であるならば、これから先も東京に来ることは少なくは無いであろう。
今後の楽しみも増やしながら、わいわいと騒ぎつつメニュー決めていく3人であった。




