マオ、痴漢冤罪に遭遇する 1
本日、ユウは貯めていたアニメの消化をしたいという事でマオは1人でお出かけをしていた。
流石に子供の姿では何かが起こった時に困るので大人の姿であった。
一度変身すると3日は魔力を溜めなければならず、その為、この姿になった時にやっておきたい事は済ませておこうとやや遠出をしていたのである。
電車に乗り、吊り革に捕まっていた時のことである。
「……何か様子がおかしいのう」
そう呟いたマオが気にしたのは後方のくたびれたサラリーマンの方向であった。
彼は右手で吊り革を掴み、左手にはバッグを持ち、胸の前で抱き抱えるようにしていたのであった。
一見すると何の変哲もないサラリーマンに見える……それもそうであろう。
彼はただの疲れたサラリーマンなのだから。
問題はその隣の女性であった。
身長は150あるかないかとという小ささながら、体重は70を超えてそうな巨漢。
胸とお腹の境目が分からず、同じ女性の目線からであっても失礼だとは思ったが、マオは彼女に何の魅力も感じなかった。
そんな彼女は周囲の様子を観察しながら、あるタイミングを測っているように見えた。
マオに関しても探知魔法により彼女の様子を見ていただけであって、実際に顔を向けているわけではない。
こうして待つ事数分……次の駅が見えて乗客が全員窓の外を見た時であった。
「この人、痴漢です!!」
彼女はそう言うと男が吊り革を掴んでいた手を強引に持ち上げると、周りに聞こえるようにそう叫んだ。
その言葉に一番驚いたの当事者である男の方であろう。
何せ彼は疲れてずっと吊り革を掴んで離していなかったのである。
「え、あ、は……」
「ほら、降りてください!
あと早く駅員さん来てーーー!!」
男が動揺している間も女はうるさくがなり立てる。
すると周囲の人々は、彼が痴漢であることが確定しているような侮蔑の目をし始めた。
……ただ1人を除いては。
「ちょっと待つのじゃ」
「な、何よ、あんたは!」
「妾はさっき見ておったのじゃが、この人は左手は鞄を、右手は吊り革を掴んでおった。
そんな状態で痴漢をするのは不可能であろう。
のう、そうじゃよな」
「え、あ、はい!
そ、その通りです」
マオの問いにやっと正気に戻った男が壊れた人形のようにブンブンと首を振った。
そんな時であった。
「はーい、ちょっと何があったか聞かせてくださいね」
周りの乗客を制しながら駅員が現れたのであった。




