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江戸時代の萌やしの話

「なんか……暑くない?」


昼日向、外を散歩していた2人であったが、空から燦々と降り注ぐ太陽光に耐えかねたのか。


突然、ユウは真央に語りかけた。


「確かに天気が良くて日が照っているのじゃが、それにしても暑いのう」


「このまま一気に春が来たりなんて……」


「三寒四温と言うからのう。

そう簡単に暖かくなるとは思わなんだが、しかし来週は日中が18度になる日も来てしまうようじゃな」


「うへぇ、この間雪が降ったばかりだってのにね。

なんか桜とかも勘違いして咲いちゃうんじゃない?」


「そういえば桜は寒い時期から暖かい時期に移り変わったのを察して咲くという話であったな。

勘違いして咲いてしまう桜もあるかもしれんのう」


晴天が続いた状態で気温が上がると桜が春が来たと勘違いして季節外れに開花する事があり、これは狂い咲きと呼ばれる現象である。


「昔、その勘違い……確か狂い咲きじゃったな。

それを人為的に引き起こそうと、何かの番組でずっとやっておったそうじゃ」


「そうなんだ。

それで結果はどうなったの?」


「少しは咲いたそうじゃが、満開どころか五分咲きですら無かったようじゃな。

残念ながら自然現象を人の手でどうにか起こそうと言うことが烏滸がましいと言う事じゃよ」


「ん〜それで前にマオが話してくれた事を何か思い出しちゃったな。

江戸時代には人為的に作った、季節外れの野菜が高値で取引されてたって話だよね。

なんて言ったっけ?」


「ああ、早出しの野菜じゃな。

この時代には早出しの野菜は全て萌やしと呼ばれておったそうじゃな」


今でこそ萌やしと言えば白く細長い芽のような野菜をさすが、当時はこの人為的に作った早出しの野菜の事を萌やしと呼んでいたそうである。


「今みたいにビニールハウスがあるわけでもないのに、どうやって作ってたんだろうね?」


「ビニールではないが、葭簀(よしず)で囲って寒風を防いでおったそうじゃ。

更に雨障子で苗床を囲って徹底的に熱が逃げぬようにしておったらしいのう。

苗床では魚のアラや内臓、藁や落ち葉に葉と言った物を積んで踏み固めてから水を撒いて発酵させておったそうじゃ。

これにより発酵して地温が上がって熱が保たれておったようじゃぞ」


「へぇ、凄い手間がかかる事をやってるね。

そこまでするのが凄いよ」


「今では野菜など旬を問わずに年中食べられるもんじゃが、当時は季節ごとであったからのう。

季節外れの野菜は贅沢だったのじゃろうな」


「確かに現代では萌やしも何もあったもんじゃないよね。

あ、折角だし今日は萌やし買って何か作ろうか」


「おお、ユウの料理は何でも美味いからのう。

楽しみにさせてもらうとするかの」


こうして、2人は季節外れの暖かさも楽しい話題へと変えてスーパーを目指すのであった。

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