見覚えのある夫婦 1
それはユウとマオがいつも通りに食料品を買った後の帰り道での出来事であった。
「ここら辺だと思うんだが……」
「あなた、さっきここは通りましたよ」
何やら地図を片手に困り果てている夫婦を見かけたのであった。
「何かお困りかのう?」
「僕たちで良ければ力になるよ」
こういうのを放って置けない2人。
かつて東京駅で迷ってへたり込んでいた響子を助けた時と同じように声をかけた。
「あらあら、これは親切なお嬢さんたち。
ねぇ、ありがたく力を貸してもらいましょうよ」
「ああ、そうだな。
この場所に行きたいのだが……分かるかな?」
そう言って夫が差し出した地図に丸が付けられた場所。
そこは2人にとって馴染みがあるどころではない場所であった。
「ああ、そこならよく知っているから案内するよ」
「妾達についてきて欲しいのじゃ」
こうして夫婦の前を扇動して歩く2人。
ちらっと後ろを振り返れば、親切な人に出会えてよかったなどと、あからさまに安堵の表情を浮かべていた。
「なんか雰囲気似てるし間違い無いよね」
「多分そうであろうな」
2人は夫婦に対してある程度の確信を持ちながら目的の場所へと案内していく。
「このマンションがそうだよ」
「参考までに聞いておくが部屋番号は聞いておるかのう?」
「ああ、それならこの丸の部分に……」
そう言って夫が見せてきた地図を見て2人は疑惑が確信に変わったのを実感した。
「なるほどのう……実は妾達もこのマンションに住んでおってのう。
その部屋の住人はいま部屋を留守にしておるのじゃ」
「そ、そうなのかい……あら、本当に反応がないわ」
「それは困ったな……どこかで時間を潰すか……」
あからさまに困り果てた夫婦の前で2人はある提案をすることにした。
2人の間で相談はしていないが、アイコンタクトでお互いの考えていることが一致しているのは理解できていたのである。
「良かったら僕達の家で休んでいかない?
実はその部屋って隣の部屋だから帰ってきたら直ぐに分かると思うんだ」
「いない事を知っていたのもそういう理由じゃな。
お二人が良ければの話じゃが……」
ユウ達の突然の提案に目を丸くした夫婦。
だが、直ぐに笑顔に変わった彼らの返答は
「せっかくのご縁だからお言葉に甘えさせてもらおうかな」
と言うものであった。
こうして2人は正体がバレバレな夫婦を自宅へと招き入れることになったのであった。




