神使巫女と土地神様 2024
2024/02/17 誤字報告受け付けました。
いつもありがとうございます。
「あら……今年は巫女さんの厄を祓わなくていいのですか?」
ここは神使巫女が住む神社の遥か上空。
そこで下界を見下ろす一柱の神に対して近づいてきた影。
その人物はかつては、くじよじのタレントとして所属し、現在は引退してマネージャー兼八百万の一柱として活動している田中ルーナであった。
「うむ、何やら数ヶ月前の騒動で溜まっておった力をすっかり発散してしまったらしいのでな」
「ああ、熊本の不良退魔士問題の一件ですか。
を、のわなるほど……彼女の運転テクニックが神がかっていたのにはそのような理由があったのですね」
ネコリの里帰りの日、不良退魔士に追われてカーチェイスをする羽目になった巫女達一向。
相手は車の動力に妖怪を使っているという明らかなチート車だったのだが、巫女の思い切りの良い運転はその妨害を悉く跳ね除けていたのだ。
これは彼女のドライビングテクニックが格別に優れていた……訳ではない。
彼女に封じ込められていた膨大な霊力がピンチになって顕在化し、その身に奇跡を起こした結果である。
誰かが言っていた言葉を引用するのであれば「運転のダイスロールで連続でクリティカルを出した」という状況であった。
「全く……お主の信者で知り合うてからはハラハラする事ばかりだな」
「あら、あの子達は私の信者という訳ではありませんよ」
「お主の庇護下に置かれていることに違いはないであろう。
まぁ、この神社に閉じこもっておった時に比べれば活発になっておるから構わぬがな」
「本当に巫女さんのことを大事にしているんですね」
「あやつはワシ専属の巫女だからな。
それに恐らくは最後の巫女になるだろう」
「それは……」
この神社には巫女以外に受け継ぐものがいない。
管理する者がいなくなった神社に祀られている神は忘れられ、最後はその存在を消失させる。
「なに、気にせんで良い。
役目を終えるというのは悪いことばかりではない。
産まれ落ちてきたばかりのお主ではまだ分からぬかもしれんがな」
「……肝に銘じておきます」
ルーナは元はユウ達の世界の神であるが、その分霊として産まれたのはユウ達がこちらの世界に来たばかりの時である。
そんな彼女の言葉に土地神の言葉は重く受け止められたのであった。
「さて、そろそろあやつを手伝うとするかな」
「今年は見守るだけじゃないんですか?」
「あやつはそれで良いが、毎年ここにお詣りに来る客を無碍には出来ぬだろう」
「流石は巫女さんの祀る神様ですね。
口では何と言おうが根は真面目なところがそっくりですよ」
「揶揄うでない……では、また来年じゃな」
「ええ、また来年お会いしましょう」
こうして下界に降りて巫女の体に乗り移った土地神の様子を見届けてから、ルーナはその場を後にしたのでした。




