正月気分に災難
ある日のこと、買い物へと外出した2人はのんびりと話しながら街を歩いていた。
三連休の最後の日、まだお正月ムードが残り、何処か街全体の空気がまったりしている中で事件は起こった。
「お、おい、アレやばくないか!?」
「に、に、に、逃げろおおお!!」
静かだった街に突如として悲鳴がこだまする。
ユウとマオが慌ててそちらの方を向くと、2人の行先を横切る大道路の方で一台の車が明らかに暴走したスピードを出していた。
「あ、あれはいけない……マオ!」
「分かっておるわ!!」
ユウの呼びかけに応じるようにマオは左手と右手から同時に別々の魔法を発動させる。
片方は対象の速度を遅らせる魔法……これを暴走車を中心とした空間全体へとかける。
そして、もう一つは対象のスピードを上げる魔法。
こちらはユウへとかけられた。
「さっすがマオ!
ちょっと行ってくる!!」
そう言ったユウはマオの目の前から消えるように姿を隠し、次の瞬間には少しスピードの落ちた車の前へと躍り出ていた。
「どっせい!!」
ユウは真正面から暴走車を受け取ると、その勢いに少しずつ後退りしつつも確実に車の速度を削っていく。
そうしで徐々に勢いが落ちて完全に止まると思われた時であった。
突如として車が全焼した。
比喩表現でも何でもなく、前触れもなしに車全体が火に包まれたのであった。
今はマオの魔法の効果で、この空間全体が遅くなっているというのにである。
「危ない……中の人を助け出さないと!!」
咄嗟にそう判断したユウは車のフロントガラスを叩き割って運転席の方を見る。
そこにはシートベルトに身を任せてぐったりとしている中年男性1人がいた。
今のユウは一般人に見せかける為に温度耐性を切っている状態である。
流石に死ぬことはないものの、炎の勢いは凄まじく、確実にダメージを受けてしまうだろう。
だが、ユウは見捨てない。
炎に包まれた運転席の中に侵入するとシートベルトを引きちぎって男性を抱え上げた。
ユウはそのまま野次馬のいる歩道の方に男を寝かせると、そのままマオのところへと戻っていった。
「大丈夫か?
火傷になどなってはおらぬか?」
珍しく心配そうにしているマオに対して、ユウはピースサインで答えた。
「へへ、咄嗟に大炎の防護魔法を僕とあの人にかけてくれたでしょ?
だからお互いに無事だよ」
「それなら良かったのじゃ」
実はユウ達に魔法をかけた直後にあの暴走車の挙動を思い出したマオ。
その後炎上するかもしれないと思った彼女は、慌ててユウと運転手に防護魔法をかけたのであった。
「とりあえず騒ぎになりそうだから離れよう」
「うむ、そうじゃな」
人々からすれば暴走車が突然何かにぶつかって止まり炎上。
更に運転手と思わしき人物が近くの歩道に突如として現れた状態なのである。
面倒な事になる前に2人はその場を脱出するのであった。




