クズ王の今と異世界の変化
「それで外は現在どうなっておる?」
勇者と魔王の配信が流れた結果クーデターが起こり、その権力の殆どを失った元王は現在軟禁生活を余儀なくされていた。
元王は軟禁されている屋敷から出ることは叶わず、付き従うのは屋敷の使用人のみである。
「はぁ・・・相変わらず勇者と魔王の配信というものはとても人気が高く人々の娯楽として広く受け入れられているようですね。
更には女神様まであちらの世界で同じように配信を始めたということで教会の者たちは大騒ぎでございます」
外に情報収集に行かせていた使用人の話を聞いて元王は面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「ふん、女神だと!
どうせ偽物であろう。
それを教会側が騒ぎ立てているのではないか?」
「いえ、それが勇者、魔王、女神のその日の配信予定が各地域にある教会の司祭にお告げとして伝えられているようで彼らはこの三方の起こした奇跡だと涙を流してよろこんでおります。
各地では女神様の像の横に其々、勇者と魔王の像を建設される程の喜びようです」
「なんじゃと!
偉大なるワシの像を建てるならともかく、勇者と魔王の像を建てるとは何事じゃ!
そんなもの金と資源の無駄ではないか」
元王は激高して机をドンと叩いた。
それに対して使用人は明らかに不服そうに顔を歪める。
使用人達も好き好んで元王に仕えているわけではない。
彼らはそれなりに元王の機嫌を取りながら仕え、怪しい動きをするようなら直ぐに連絡をするように命令されているスパイのようなものであった。
「いえ、そうとも言えません。
御告げにあった配信時間になると其々の像の目から光が飛び出し、目の前の壁に其々の配信映像を流し始めるそうです。
そこで各地の教会では其々の像を部屋で囲み、映像を写しやすい壁を作りつつ中に長椅子を置いたところ人々から大好評。
いまや教会は民衆に愛される娯楽施設の側面も持つ場所になっております」
「くぅ・・・教会ともあろうものが何という体たらくじゃ。
まさか、民達を堕落に導こうとするとは」
元王の呟きに使用人は頭を振る。
「いえ、寧ろ逆ですね。
配信を見終わった民衆は寄付をしていきます。
また、民衆と一括りにしましたがその中には貴族や商人も混じっており、彼らは平民との差を見せつけるためにも多額の寄付を致します。
教会はその寄付金を着服することなく孤児院や炊き出しに使い先の戦争の傷跡を癒そうと活動しております。
お陰で御二方と女神様を信奉する教会の人気は非常に高くなっております」
「何と忌々しい・・・ともかく報告ご苦労であった。
これからも我の為に働くが良い」
「ははっ、ありがとうございます」
使用人はそう言って頭を下げる。
もちろん下を向いて元王に見えない表情からは
「何言ってるんだ、こいつは」
と物語っていた。
「それではお時間となりましたので私はこれで下がらせていただきます」
「うむ、ご苦労。
そうじゃ!
そなたの働きに報いる為にも偶には我と一献どうじゃ?」
元王はそう言って棚から不自由しない程度に酒を取り出す。
しかし、使用人は
「せっかくのお誘いですが恐れ多いのでお断りさせていただきます」
と言って席を立ち部屋を出て行った。
彼は扉を閉めた直後に
「この後マオ様の麻雀講座を見なけれならないのにバカ王に付き合っていられるか」
と捨て台詞を残して去って行った。




