ブラックサンタの東京観光 4
「僕たちが石炭と臓物を配り、それでも足りない場合は子供を袋に詰めて攫っていく……それは本当の事です。
しかし、それにはしっかりとした理由があるんですよ」
「ふむ、実に興味深い。
ぜひ聞かせてもらおうか」
「あたしたちが絡む家の子供ってのは全員悪い子じゃ無い。
そもそも善悪の区別する付かないくらい貧しくて教育も施されていない連中なんだよ」
「確かにそういう国が未だにあるっていう話はよく聞くよね。
日本にいると信じられないけど……実際、この世界じゃないけど、僕も旅している途中でそんな環境は山ほど見てきたよ」
ユウはかつての旅を思い出したのか、珍しく物憂げな表情で語った。
「現代でもある事ですが、過去には珍しくないレベルでこのような状況は多々あったわけです。
そこで私達は栄養を取れるものとしてモツのスープを作って欲しいという思いで、石炭という燃料と臓物を配っていたわけです。
子供達はこれらの手伝いをする事で良い子への道を歩んでもらおうとするわけですね」
「なるほど、そういう事であったか。
つまり、これは嫌がらせではなく施しであった。
しかし、現代では結果ではなく過程のみが誇張して広まってしまったために黒いサンタの悪い噂として伝わってしまったというわけじゃな」
「確かに現代人の価値観なら嫌がらせにしか聞こえないけど、貧しくても食料も燃料も買えない人からしたらお宝だよね」
「それでは子供を攫うというのはどういう事なのじゃろうか?」
「うっ……それは……」
マオの質問に反応したのは、クネヒトではなくヴィクセンの方であった。
「ヴィクセンは辛いなら席を外してもいいですよ」
「いや、今日はあんたの護衛で来てるんだ。
それにあたしもいい加減に過去のことにしないとな」
「それならば……先程のプレゼントを運んだ家の中に、このスープを自分たちだけで食べてしまって子供には分け与えなかった親がいたのですよ。
本来は子供達のプレゼントなのですかね」
「まさか、それで……」
「ええ、こうなってはその家で子供達が幸せに暮らす事は不可能でしょう。
なので、その家の子供を攫ってしまうのです。
そうして私達の国で健やかに過ごしてもらい、将来的にサンタの手伝いをしてもらうわけですね」
「それじゃヴィクセンってもしかして……」
「ああ、あたしは攫われた子供の1人だよ。
最も、あたしにとっちゃあれは誘拐じゃなくて救いの手だったんだがね」
「そうであるから、この話題に口を挟んできおったのじゃな」
「そういう事さ……最もあんた達に悪気がないのは分かってたからね。
何度も突っかかって悪かったね」
そう言って握手を求めてきたヴィクセンに応える2人であった。




