ネコリの里帰り 11
巫女達の車はそのままゆっくりと下に降ろされていき、先程まで駆け抜けていた道路の上に降り立った。
「助かりましたよ、ユウちゃん」
窓を開けて顔を出す巫女。
その視線の先には待ちわびた人物、田中ユウの姿があった。
「ほんと、危機一髪だったね。
それで……あれを捕まえればいいのかな?」
ユウの視線の先では先ほど巫女達を追いかけていた車がこちらに向かって走ってきていた。
「あいつ、得体が知れないから気をつけ……」
巫女と同じように窓から身を乗り出したネコリが叫ぶが、ユウはそれを右手を水平に上げる事で止めた。
「こう見えてね……僕、結構怒ってるんだよ。
だって、僕が間に合わなかったら巫女さん達が死んでた可能性だってあるんだからね」
「ひぃ……」
ユウの声には今までに感じたことがないような圧が感じられた。
その圧は彼女の目の前である、こちらに向かってきている車の主に向けられている。
それでも後ろに漏れ出すほどにはユウは頭に来ていたのだ。
前方から猛スピードで向かってくる車のタイヤから炎が噴き出していた。
「な、なんなんですか、あれは!?」
「そうか……やっと分かった。
あの車の車輪には妖怪の輪入道を使役して使われているんだ」
「なるほど……あの妙な挙動も其々のタイヤが意思を持って動いているからと言う事ですか」
「輪入道って……ええっと、調べたら炎を撒き散らしながら走る車輪の妖怪って書いてあるけど」
「おそらくはその炎の力で雪女の力を弱らせるのが目的だったんだ。
だからこそ、私が道路を凍らせても影響が無かった……でも」
「今度ばかりは相手が悪すぎましたね」
車がユウにぶつかる……その寸前に彼女は何も持っていないはずの右手を前方に振るった。
その瞬間に車は縦に真っ二つとなった……と思った直後にパーツが全て細切れに切り刻まれ、無事なのは四つの車輪と、運転席にいた男だけであった。
最も、男の服も細かく切り刻まれており、全裸で椅子に座っている格好で空中に放り出されるというかなり間抜けな姿となっていた。
その人物が地面に落ちる直前にユウが作った魔力の糸が彼をぐるぐる巻きにして拘束し、そのままガードレールから崖下に吊るされる形で捕縛される。
術士が拘束され、更に彼らを捕縛していた車の本体が無くなった事で4匹の輪入道が自由になり空中を駆け回る。
怒りのままに炎を吹き出していた輪入道達であったが……
「うるさい、熱い」
ユウがピシャリと言い放った言葉によってすごすごと大人しくなる。
「このまま何処かに消えるなら何かするつもりはない。
でも、そうじゃないなら……」
ユウの言葉に輪入道達はガタガタと震えたかと思うと、そのまま空を駆け上がって見えないところまで駆け抜けていくのであった。
当初は普通に里帰りする予定だったのですが……なんでこんな事になってしまったんでしょうね。




