ネコリの里帰り 6
縛り上げられていた老人はフゴフゴと口元が動いているが、ハナの術によって言葉を封じられていて何も発する事が出来ずにいた。
「捕まえて来ましたよ」
「それでこの人がどうしたの?」
「ちょっと待ってくださいね。
私は退魔士協会の事務管理をしている巫女と申します。
……この意味がお分かりなら無駄に騒ぐのはやめて頂けませんか?
そうすればまずは言論の自由を保証しましょう」
それまでは無駄に術から抜けようと抗っていた老人だが、その言葉を聞いてピタリと動きを止めた。
そして、心なしか青褪めた顔でコクコクと頷くのであった。
「分かりました。
口だけ自由にしてあげてください。
貴方達の正体と目的は分かっていますが確認の為にご協力お願いしますよ」
「わ……分かったわい……」
「さて……どう切り出したものか。
熊本に登山するのはいつ頃のご予定ですか?」
「な、なぜ、それを!?」
カザとハナには意味の分からない質問だったが、老人は明らかに動揺し始める。
「だから言ったじゃないです……全部分かっていると。
貴方達の勢力と目的、日程まで全てですよ。
これはあくまで確認作業なのです。
今ならば低度のペナルティで済みますよ……玄蕃さん」
突然呼ばれた名前に、男の目は飛び出しそうなほどに広がって驚きを表現していた。
そして観念したようにポツリポツリと巫女が言う計画を話し始めたのであった。
その計画とは端的に言うと、玄葉と仲間の退魔士達で、妖怪が人間に溶け込んで暮らしているところに向かって、強引に妖怪達を封印すると言う計画であった。
そして一緒に暮らしていた者たちには、その正体を明かして貴方達は騙されていたのだと諭して謝礼をせしめるつもりだったらしい。
また、封印した妖怪は闇の売買組織にて売り払うつもりであった事まで白状した。
話のあまりの悪辣さに、カザとハナの顔から血の気が引いていく。
その瞬間、ハナの術の制御が乱れて玄蕃は自由になった。
それを好奇と見て咄嗟に走り出す玄蕃。
「しまった!」
「あ、待て!!」
慌てて追いかけようとする2人であったが、玄蕃の足は思いの外早くあっという間に見えなくなってしまう。
「2人とも大丈夫ですよ。
もう済みましたから」
『え?』
2人が巫女の方を振り返った時であった。
2人の後方……巫女の視線の先にどさりと何かが落ちてくる。
それは縄でぐるぐる巻きに縛られて気絶させられた玄蕃であった。
「一応呼んでおいた援軍が間に合ったみたいですね」
「え?一体誰なんですか?」
「それは内緒です。
今回は極秘で動いてもらいましたので、これはお二人がやった事にしておいてください」
「それは良いけど……結局、この人は何だったの?」
「……そうですね。
お二人も知っておいた方がいいでしょう」




