空港に取り残された男の話 3
「フランスに向かった彼の立場は非常に面倒かつ複雑な状況になってしまったのじゃよ。
方法はどうであれ、不法ではなく合法的に入国した彼をフランス政府は国外退去する事が出来なかったのじゃ」
「何か悪い事をした訳でもないし、不法入国じゃないならそれはそうだよね」
「しかし、それとは別に難民としては認められず、かと言ってビザが降りる事も無かった為に、彼は空港を出ることが出来なくなった訳じゃな」
映画のモデルとなった男性の説明文を見ながら解説するマオ。
ユウはそれに理解を示すようにうんうんと頷いた。
「ここで元々いたベルギーに対して難民証明の書類を再発行するような話が出たのじゃが、ベルギーはこれを拒否。
彼の国の理屈としては証明書を発行した本人かどうかを直接確認しなければ、書類の再発行はしないとの事じゃな」
「それなら一度ベルギーに戻れば良かったんじゃないの?」
「それが、ベルギーは自分の意思で国を出た難民を再び受け入れることは無いと入国を拒否したんじゃな」
「この人の立場になると何だよそれってなるけど…‥ベルギーの立場になってみると正論な気がするよね。
そもそも、そんな大事な書類を勝手な思い込みで手放した方が悪いって話にはなりそうだし」
勇者として活動していた頃のユウは、片方の言葉だけを鵜呑みにして魔王討伐に赴いていた。
しかし、マオとの交流を経て、この世界で様々な考えに触れた結果、両者の立場に立ってフラットな考えをすると言う思考が身についたようであった。
「うむ、全くもってその通りじゃな。
しかし、ベルギーもこのままではいけないと、再びベルギーで生活をするのであれば入国を許可すると考えを軟化させたのじゃな」
「あ、これで帰れば空港生活とはおさらばって事だね」
「ところが、当の本人はベルギーを出る為に出国したのだとこの提案を拒否。
更に空港生活の長期化が決定したのじゃ」
「気持ちは分かるけど頑なだね」
「元々映画の主人公のように人付き合いの得意な気持ちの良い人物とは真逆の性格だったそうじゃからな。
更にその後はフランス政府が難民パスポートと居住許可を与え、ついに書類にサインすればフランスで生活できるという話になったのじゃな」
「お、それは良かった。
それでこの物語は終わ……」
「まだ終わらぬよ。
ここまでお膳立てされておきながら、書類の自分の項目が事実とは違うと憤慨。
サインを断って空港に居座ったのじゃな」
「え?フランスに移住するのが目的だったはずでしょ?」
「推測になるのじゃが、長い年月をかけて空港に居場所を作った為、今更離れられなかったのかもしれぬのう。
その後はフランスの滞在許可証とアメリカの入国ビザを手に入れて一時期は空港を離れていてそうじゃが……結局はこの場所に戻ってきて空港で病死したとのことじゃな」
そこまで話したところで、画面に映っていた彼の説明文を閉じるマオ。
ユウは何だか納得のいかない顔をしていた。
「結局、何がしたかったのかな?」
「それはこの本人にしか分からぬことじゃな。
事実として分かるのは、映画よりも奇妙な生活を続けていた……そのくらいであろう」
「事実は小説よりも奇なりって事かな。
色んな人の人生があるんだなってことはよく分かったかも。
後はそうだな……自分の居場所から離れられない気持ちは今なら分かるよ」
ユウはそう言ってマオの瞳を正面から見つめる。
「僕だって今更マオの側から離れろって言われても無理だもん」
「それはお互い様じゃな」
こうして2人で笑い合った後、久しぶりに同じベッドで就寝する時間取った2人であった。
映画「ターミナル」とそのモデルになったマーランさんの話でした。




