カラオケ店の衝撃 3
八起子さんが桁違いに歌が上手いだけであって、残りの3人も上手なので浮いている気がしますね。
「いやいや、自己流でそれだけ歌えるなら十分っするよ。
私たちなんて全員ボイトレとか通ってるんスから」
私がユウちゃんとマオちゃんのデュエットを聴いていると、ナコさんがそんな事を私に話してきた。
「え、皆さんボイストレーニングを受けてらっしゃるんですか?」
「そうっすよ。
それで声の出し方やら音程の付け方を学んでるし、レコーディングとかの実践も経験してるから、私達はセミプロみたいなもんなんスよ。
そこになんの練習もせずについてきている響子さんはもっと誇っていいってスよ」
「そ、そうですかね」
「まぁ、あれは別格なんスけどね」
そう言われて視線を向けると、そこでは八起子さんがまた難解な曲に挑戦していました。
消失する歌なんですけど……これって人間が歌える歌だったんですね。
私がそう言うとナコさんはどこか誇らしげに、
「私も八起子以外に歌える人見た事ないっスけどね」
と答えた。
「もうそろそろ本番でもいいんじゃないかのう?」
「カラオケなら演奏しても大丈夫でしょ。
ほら、テーブル片付けるから」
突如、ユウちゃんとマオちゃんはテーブルの上にあったものをカチャカチャと端にどかし始めました。
「え?ここでやるんスか?」
「先輩、急すぎますよ」
ナコさんと八起子さんはそう言って戸惑う感じを出していましたが、何やら準備を始めていますね。
ナコさんは壁に立てかけていた黒いケースを開きます。
すると、中からキーボードが出てきました。
「それじゃ、このコードをそこの電源にお願いするっス。
で、自分はこれをこうして……どうっスかね?」
ナコさんが軽くキーボードを弾くと、部屋内のスピーカーから音が流れてきました。
「ちょっと慣らしていきまスね」
そう言ってナコさんが弾く曲は誰もが聞いたことのある土管工のステージの音。
通常から地下、無敵に水中と行き、残り時間が少なくなってテンポアップからの死亡音に思わず拍手してしまいました。
「ははは、拍手ありがとっス。
でも、ここからが本番っスからね。
八起子、準備はいいっスか?」
「いつでも大丈夫。
いつもの流れで行こうか」
「オッケーっスよ」
こうして突如として始まったミニライブ。
それは私にとって忘れられない思い出となるものでした。




