折口響子の上京記録 3
「本当に助かりました」
目的地の駅まで着いた私は深々と頭を下げる。
「いいっていいって。
それよりも目的の場所って何処?
せっかくここまで来たんだから案内するよ」
「うむ、ここまで来たのに置いていっても寝覚めが悪いからのう。
ちゃんと家に着くまで送るのじゃ。
お主の家は何処か分かるかのう?」
「あ、それでしたらこの紙に……」
私はバッグの中から契約書類のコピー出して2人に見せました。
2人はその住所を見ると驚いたように目を大きく広げました。
「あの……お二人でも分からない場所なんでしょうか?」
「え、ああ、違う違う。
寧ろ馴染みの場所過ぎてビックリしたっていうか」
「うむ、妾達はこの部屋の隣に住んでおるのじゃよ。
つまりはお隣さんじゃな」
「お隣……え、ええええええええ!?」
駅で困っていたところに助けてくれた人がお隣さんなんて、それなんて乙女漫画だっぺ!?
は、お隣さんという事は……
「あわわわわわ!?
挨拶が遅れてしまって申し訳ないっぺ!
引っ越し蕎麦の用意を……」
「待って待って、落ち着いて!!」
「こんな所で引っ越し蕎麦も何も無いじゃろう。
ほれ、深呼吸、深呼吸じゃて」
「は、はいっぺ
ひっひっふ〜ひっひっふ〜」
唐突な展開にパニックになってしまいましたが、お二人のアドバイスに従って深呼吸を……深呼吸ってこんな感じでしたっけ?
とにかく深く息を吸って吐きました。
「それ深呼吸じゃなくてラマーズ法じゃ……なんか産まれそう」
「しっ……とりあえず落ち着いてきたからこれで良いのじゃ。
しかし幸運であったのう。
これなら問題なく案内出来そうじゃし、困った時にはいつでも助けになれそうじゃ」
「うう、本当にありがとうございます。
まさか上京してこんなにすぐに良縁に恵まれるなんて」
そんなこんなで私は2人に案内してもらって住む予定のマンションへと辿り着いたのでした。
「あれ、ここの扉はどうやって開けるんですか?
鍵穴も見当たらないし」
無事にマンションのロビーまで辿り着いたのだが、扉が開かないし鍵穴も見つからない。
「このマンションはオートロックだからね。
もらった鍵があるでしょ?」
「これですかね?
キーホルダー付きなんて都会はオシャレです」
私が取り出した鍵には鍵と黒いキーホルダーが付いていた。
「それはキーホルダーでは無くてロビーの鍵じゃよ。
そのパネルの上にある黒いタイルにかざしてみると良いぞ」
マオちゃんの勧めで私はキーホルダーだと思っていた物をかざします。
すると、扉が自動的に開いたではありませんか!
「あわわ、為して都会はこんなにハイカラでハイテクだべ」
「はっはっはっ、僕たちも最初は驚いたもんだよ。
ここは暫くすると勝手に閉まるから行こう!」
「は、はい!」
こうして2人に導かれて無事にこれからお世話になる我が家に辿り着きました。
折角だからと2人から食事に誘われたのですが、準備があるので3時間後にお二人の家にお邪魔させてもらう事になりました。
私も荷物を置いたり、推しのライブ配信の予定があったのでその時間はちょうど良く、了承して自分の部屋へと入ったのでした。




