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女勇者として召喚されたけど、やる気がないので魔王の娘に聖剣と○○をあげました。  作者: なよ
第一章、女勇者レイナと魔王の娘エクレアの日常
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女勇者レイナは竜鱗を手に入れた

「ふむ」


 戻ってくるまでの間、竜の巣見学でもさせて貰おうかしら。……実は、さっきから気になっている物があるのよね。ウィールさんがいなくなって、それまで寝床にしていたであろう場所がキラキラと光っているのよ。あれって、アレよね。竜が金銀財宝を集めているとかそういう類いのやつ。


 別にそれを頂こうというわけではないけど、こちらの宝石類には興味があるじゃない? だって女の子なんだものっ。


 というわけで、ウィールさんのお宅はいけーん。


「うっふふ、何があるのかしら」


 ウキウキしながら、ウィールさんが寝床にしていた藁を乗り越えていく。


 そこには目の眩むような財宝がーと思ったのだけど――


「あら、意外と貯えていないのね」


 金銀財宝は確かにあったけど、それは予想していた量よりも遙かに少なかった。


「ウィールさん、こういうのにはあまり興味ないのかな」


 それでも、お宝には違いない。こちらの世界でもちゃんと宝石は価値があるようで、丁寧にカットされた赤青紫といった色とりどりの宝石や、ダイヤのようなものが転がっていた。他にも装飾をこれでもかと施された剣や王冠、ティアラなどもあったけど、全体的な数は少ない。


 それよりも、一番多くあったのは――


「うーん、これはある意味宝石より価値があるかも」


 私はそれを――ウィールさんのものと思われる巨大な鱗を拾い上げた。


「わっ、軽い」


 鱗はもうそこら中に散らばっていて、ウィールさんがここで長い年月を過ごしていたことを伺わせる。


 鱗を軽く叩いてみるとカンカンといい音がして、強度もかなりありそうだった。ゲームなんかで竜鱗の装備がかなり強い扱いになっているのも頷けるというものだ。


「沢山あるなぁ……」


 これ、もしかしていい感じに利用出来るんじゃないかしら。


 王都を追い出されるときに、また王都へ入りたかったら実績を積んでこいと言われた。もしくは、それ相当のレアアイテムを持ち帰れと。


 この竜鱗はまさにそのレアアイテムじゃなかろうか。ウィールさんにお願いしたら二、三枚くれないかなぁ。


 エクレアたちが戻ってくる間に、綺麗なやつを何枚か選んでおこう。


    ****


 エクレアがウィールさんと共に戻って来たのは、私が綺麗な鱗を選別し終わり、ちょっと暇を持てあまし始めた時だった。


 バッサバッサと盛大な羽音をさせながら、二人が降りてきた。


「はー、さすがに疲れたのじゃ。一体どこまで行くつもりだったのじゃ」


『だって、エクレアがその聖剣を振り回しながら追いかけてくるから』


 呼び方がエクレアになっているのは、帰ってくるときにあだ名のことを教えてあげたのだろう。


「これはレプリカじゃ。命名はレプリカント。本物の聖剣ではないのじゃ」


『そんなのわかんないしー』


 ふてくされながらウィールさんは寝床に座り込んだ。そして、じーっと私のことを見つめてくる。


『レイナちゃんって言うんだったわね』


「はい、そうです」


『アタシのこと襲わない?』


「襲いませんよ、やだなー」


 こんな馬鹿でかい竜をどうやって襲えと。逆にこちらが襲われる側だ。


『ふー、一応エクレアからは話しを聞いたけど、魔王軍に寝返るなんてやるじゃない』


 ウィールさんが首を下ろして、私の眼前に近づけてくる。多分ニッコリと笑みを浮かべているんだろうけど、鋭い牙が剥き出しになって怖い。


「魔王軍に寝返ったわけではなくて、エクレアのところにいたほうが安全かなって思っただけですけどね。魔王軍の人たちに肩入れする気はないですよ」


 そこは勘違いされては困る。


『ふうん、まあいいんじゃない。ザッハディールは人間を殲滅して昔のような世界を取り戻したいみたいだけど、割と無理筋だと思っているからね。人間だけじゃなくて、エルフもいる、ドワーフもいる、亜人もいる。気にしだしたらキリがないわ』


「気がついたときには手遅れだったというやつじゃな。人間が増えているのに気がついてはいたようじゃが、わずか二、三百年で自分たちと同等の強さになるとは思っていなかったようじゃ」


 エクレアがため息をつく。


『なまじ寿命が長いと、あとでいいやってなるのよね』


 あっはっは、とウィールさんが豪快な笑い声をあげた。


『アタシたちにしてみれば、勇者が一人減れば襲われる可能性も減るから有り難いことだわ』


「襲われるんですか?」


『襲われるわねぇ。だからこんなところに巣を構えているのよ。ここに来てからは、たまーにレアアイテム探しに命を賭けている勇者が来るくらいだわ。それも、ここに登ってくるまでに体力を使い果たしている事が多いから、簡単に追い返せるけどね』


「この標高と寒さじゃ勇者といえども大変よね」


 ふと、そういえばそんなに寒さを感じないなと思った。初夏ということもあるだろうけど、実は火口の隅には氷が張っている場所があったりもする。気温的にはかなり低いと思うんだけど、これが実は私の勇者の力とかだったして。寒さに耐えうる能力! なんてね。


『だから、レイナちゃんも、アタシがここに潜んでいることは人間には言わないで頂戴ね。追い返せるといっても、相手するのは面倒だから』


「それは大丈夫です。誰にも言いません。誰にも教えたりはしないですけど、私のお願いを一つ聞いて貰ってもいいですか?」


『お願い?』


「はい、実は、ここにある竜鱗を何枚か欲しいなと思ってるですけど」


 私は先ほどまで選別していた綺麗な竜鱗を手に持って、ウィールさんに見せる。


『それはまぁ、ただの古い鱗だから欲しければあげるけど、それを一体どうするの?』


「ええと……」


 ウィールさんはあまり人間に良い感情を持ってなさそうだから言いにくいけど――


「これを持って、王都へ戻れるようにしたいんです」


『王都へ? 人間の街へ?』


 ウィールさんの声が低くなる。まあ警戒するよね。


「ええと、実は召喚された勇者って、すぐに王都を追い出されるんです。その時に再び王都へ入るためには何か実績を積むか、レアアイテムを持って来いって言われているんです」


『エクレアに協力すると決めたのに、人間の街へ戻るの?』


 ウィールさんの瞳に疑いの色が満ちる。エクレアが口を挟もうとしたのを押し止めて話しを続ける。これは私の言葉でウィールさんを納得させないとダメだ。


「私は、エクレアに協力するって決めたけど、わたし自身のこともなんとかしないといけないんです。私が異世界から来たっていうのは分かって貰えていると思うんですけど、帰る為の方法が分からないんです。エクレアも知らないっていうし。ウィールさんは何か知っていますか?」


 ウィールさんは相当長生きみたいだし、もしかしたらと期待したけど――


『それは知らないわね』


「そうですか」


 残念。


「だから、まずは私を召喚した人に話を聞かないとダメだって思ってるんです。召喚した人なら、少なからず情報を持っていると思うので」


『なるほどねぇ』


 ウィールさんは首を地面に下ろして、数度瞬きをした。その瞳にはもう疑いの色は残っていなかった。


「その為に、ウィールさんの竜鱗を手土産に王都に戻れるようにしたいと思って――。ウィールさんの竜鱗って貴重ですよね? 盾にしたら凄く性能良さそうだし」


『それはもちろん。アタシの鱗を貫こうとしたら、それこそ聖剣クラスじゃないと無理よ。人間にくれてやるのは勿体ないくらいだわ』


「すみません」


『いいわ、そういうことならあげるわ。好きに持って行きなさい』


「ありがとうございます。今度何かお礼しますね」


『期待しているわ』


 ウィールさんが瞳を細めて微笑んだ。よし、これで王都へ戻ることができそうだ。私を召喚した人のこともそうだけど、食べ物とか衣服とか、そこらの情報も見てきたいところだ。


「鱗を持っていくのであれば、新しい方がいいのではないか? ほれ、この辺りの鱗が剥がれかけているのじゃ。新しい鱗が下から生えてきておるし、剥いても良かろう」


 突然、エクレアがウィールさんの爪付近の鱗を強引に引っ剥がした。


『痛ぁあ! ええー? 何するのよっ!』


「レイナが欲しいと言っておるのじゃ、それくらい良かろう」


 さらにもう一枚剥がそうと手を伸ばす――が、すかさずウィールさんが飛び上がりその手から逃れる。


『ええーっ? 何してるの? 信じられないっ。エクレアのバカ、アホー、超古代(ハイエンシェント)(ドラゴン)を敬えーーーーー!』


 罵詈雑言を吐き散らしたウィールさんは、再び超速度でどこかへ飛び去ってしまった。


「ちょっと、エクレア、可哀想じゃない。ささくれを剥くみたいなことしちゃって。あれは痛いでしょー」


 あーあー、とウィールさんの飛んで行った方を見るが、もうその姿は見えなくなっていた。


「だって、レイナの欲しいものは妾が用意してあげたかったのじゃ」


 エクレアがめずらしく、肩を落としていた。


「はいはい、ジェラシーしちゃったのね」


 ジャニスさんやサイクロプスには何もなかったのに、ウィールさんにだけジェラシーしちゃうのは、同じ竜族だからということなんだろうか。


「もう、後でちゃんとウィールさんに謝っておきなさいよ。何処へ行ったかはわからないけど……」


「なに大丈夫じゃ。ここよりも良い巣はそうはなかろう。いずれ戻ってくる。その時に謝っておくのじゃ」


「そうして頂戴っ」


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