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女勇者として召喚されたけど、やる気がないので魔王の娘に聖剣と○○をあげました。  作者: なよ
第一章、女勇者レイナと魔王の娘エクレアの日常
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術式は物理的になくなります

「出来たっ」


「うむ、こちらもじゃ」


 術式の作成は難航し、スマホで時間を確認したら三時間程度は経っていた。もうすでに外は暗くなっていることだろう。


 術式の作成というのは、わりと一発勝負らしく、この後作った術式を体に刻み込むらしいのだけど、それが失敗作だった場合、術式は当然ダメになるし、刻み込んだ魔法も消すのは大変だそうで、最悪マナの暴走で体が傷つくこともあるのだとか。


 ミレーヌちゃんが慎重に慎重を重ねて二つの魔方陣を見比べて確認していく。きっと頭の中で、この術式がどういう風に魔法となって発動するのか思い浮かべているのだろう。


 その間私は、エクレアにスマホの使い方を詳しく教えて上げながら待つことにした。


「おおっ、凄いぞ。楽しいのじゃっ。こんな小さな箱の中で色々と動いているのじゃ」


 エクレアは子供のように目を輝かせながらスマホをいじくり回し、ミレーヌちゃんが確認し終わる頃にはすっかりとスマホの使い方を覚えていた。



「確認終わったの。これで問題ないはず」


「大丈夫そうか。よし早速刻み込むのじゃ」


 エクレアが意気揚々と魔方陣の中心に立つ。


「二つの術式を同時に刻み込むことになるから、絶対に終わるまで魔方陣から出ないように」


「心得ておる」


「では行くのっ」


 ミレーヌちゃんが魔方陣の前で手をかざすと、何かに反応するかのように魔方陣に書かれた文字が光り始めた。


「マナが反応しているの」


 目を閉じ、集中しながら静かに語る。ミレーヌちゃんは何が起きているのか私に教えてくれているようだ。


「エクレアの体内にあるマナと、術式のマナを融合させて体内に刻む。そうすれば、術式はエクレアの体内に移り、詠唱無しで魔法を使えるようになる」


「おー、そういう仕組みなんだ。やっぱり魔法って凄いわ」


 まったく仕組みが分からないという点に置いてはスマホといい勝負だ。


「エクレア、魔法に名前を――」


「そうじゃな。ううむ……、それが一番難しいのじゃ。名前のう。名前……名前。何か格好いい名前を付けたいのじゃが、いつも思いつかぬ。しかも、この魔法は今までこの世界にあるような魔法とは毛色が違う。世界初の魔法じゃ。こう、凄い名前を付けたいのじゃ」


「いいからはやくするっ。この状態を維持するのも大変なのっ」


 ミレーヌちゃんが吠える。


「わかっておる。わかっておるのじゃが――。そうじゃ、レイナに名前を付けて欲しいのじゃ。これは、レイナと妾の世界を繋ぐ魔法じゃ。是非レイナに名付けて欲しい」


「ええっ」


 急にそんな無茶振りされてもっ。


「魔法に名前をつけれるってのは魅力的だけど……。うーん、なんでもいいの?」


「なんでも構わぬ」


「はやくっ」


 くうっ。


「知らないんだから、変な名前になっても。ええと、充電はチャージよね。でも、普通すぎるかなぁ。ドイツ語にするか、それともフランス語にしてみるか。あー迷うわ」


「レイナも早くするのっ」


 ミレーヌちゃんの鋭い声が飛ぶ。


「は、はいっ。それじゃあ、それじゃあっ、よく考えたら英語以外わかんないから、ライトニングぅ、をコントーロ―ルぅ、しながらぁチャージするからぁ、いやでも魔法も使っているから、マジックを足してぇ。マジカルライトニングチャージ! 略してMLCよ。その魔法の名前はMLC!」


 もうっ、咄嗟に考えつくのはこれくらいが限界よ。MLC2にしようか迷ったけど、ない方がすっきりしていていいでしょう。


「よくわからないけど、わかった。ではいくのっ!」


 ミレーヌちゃんが力を込める。すると魔方陣の光りがさらに輝きを増していく。それは目を開けていられない程に強さを増して――。


「世界に満ちる神秘たるマナよ。我が紡ぎしマナの理をかの者の体内に刻み給え。その名はエクレア。その名はエムエルシー」


 なんか、凄いことが起きている。地面に書かれていた術式の砂が舞って、目が開けていられないっ。っていうかこの中にいるのきついんですけどっ。


 エクレアもミレーヌちゃんも、竜族らしく皮膚が丈夫だから? なんか平然としてるけど、砂嵐に巻き込まれたみたいになってるんですけどっ。


 ほとんど見えない中、なんとか薄目を開けてエクレアを見ると、エクレアの周囲に光りの文字が周回しているのが見えた。それは二人が書いていた術式だ。それが、エクレアの体に吸収されていく。


 全ての文字が吸収され、エクレアの体が眩いほどに光りを放ち――


 ――直後に爆風が巻き起こった。


「ぶはぁっ」


 そのあまりの勢いに吹き飛ばされる。


「おっと、危ないの」


 私の体をミレーヌちゃんが平然と片手で受け止めて、背後にかくまってくれた。ミレーヌちゃんも意外と力持ちだ。


「なんか凄いわね」


「これが、術式を再利用できない理由なの」


「ああ、物理的になくなるわけね」


 納得。もはや地面に描いた魔方陣は跡形もなく吹き飛んでいる。


 ややあって砂嵐は収まり、魔方陣のあった場所に、エクレアが涼しい顔で立っていたのだった。


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