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英雄の休日④



 グィンゲッツの最後の一言は声が小さくて、俺以外には聞こえなかったようだった。


 それ以外の言葉は負け犬の遠吠えにしか思われなかったようで、一瞬で片の付いた決闘のあと、グィンゲッツはギルドでの治療を断り、野次が飛び交う中、自分の足で歩いてギルドを後にした。ニルドが付き添うためにすぐ追いかけていったため、帰り道で倒れる心配はないだろう。


「ありがとう、ライ」


 去り際、ニルドはお礼を告げていったが、俺には果たしてあれで正しかったのかはわからなかった。


「やあ、ライ。見事な勝利だったね」


「ギルドマスター」


 決闘のあと、ギルドマスターに話しかけられた。


「王国騎士相手に、あそこまで完膚無きまでの勝利を収めたんだ。もう誰も君が『閃光』であることに異論は唱えられないだろう。これで君は自他共に認める王都最強の冒険者になったわけだ」


「……ありがとうございます」


「あまり顔色が優れないようだが、嬉しくはないのかい?」


「いえ、嬉しいですよ。ずっとこうなる日を目指してきたんですから。けど……すみません。今日はもう帰らせてもらいます」


「ふむ。まだ話したいことがあったんだが、それは後日の方がいいみたいだね」


 決闘の後始末をギルドマスターにお願いして、俺は『黄金の雄鶏亭』に帰ることにした。目まぐるしく変化する状況に、正直疲れていた。リカさんが心配するような顔で見ていたので、大丈夫だと手を振ってギルドを出て行く。


「ライ。これだけは先に伝えておこう」


 そのとき、ギルドマスターが口を開いた。

 振り返る俺に、恐らくは俺を呼んだ理由であろう話の一端を、端的に口にした。


「異変が起きている。どうやらヒュドラ退治は始まりに過ぎないようだ。この先、もっと恐ろしいものが蘇るだろう」


 ヒュドラとの戦いを予言したときのように、再びの戦いを。


「時代が新しい英雄を求めている。それを忘れないでくれ、我らが『閃光』よ」






      ◇◆◇






「あれ? ライさん。今日は早いんですね」


 休憩中なのだろう。私服姿のロロナちゃんが、まだ昼間なのに帰ってきた俺を見て驚いた様子を見せる。


 けれどすぐにいつもの笑顔を浮かべて、


「お帰りなさい。お昼ご飯食べますか?」


「ああ、出来ればお願いしたいけど、休憩中なら無理しないでいいぞ?」


「気にしないでください。わたし、ライさんに料理作るの好きなので! 少しお待ち下さいね!」


 ロロナちゃんはエプロンだけを取り出すと、それをつけてぱたぱたと調理場へと入っていく。


 結った亜麻色の髪が見えなくなるまで見送ったところで、いつものカウンター席に腰掛ける。背もたれに深くもたれかかり、ふぅ、と大きく息を吐き出した。


「お疲れみたいだな」


「親父さん」


「ほれ。水だ」


 ロロナちゃんに調理場を追い出されたのか、店内に顔を出した親父さんがコップに入った水を持ってきてくれる。冷やされたそれを一気に流し込んでのどを潤した。


 親父さんは空になったコップに、無言でおかわりを注いでくれた。


 今度は少しだけ口をつけて、テーブルに置く。コップの底が擦れる、乾いた音が店内に響いた。


 昼食の時間帯はすでに終わっている。現在は昼休憩ため、店内には俺以外の客の姿はなかった。いつも賑やかなだけに、少しだけ物寂しさを感じる。店員も全員休憩に入っているようで、店内には俺と親父さんしかいなかった。聞こえてくる音といえば、調理場から聞こえる調理の音とロロナちゃんの鼻唄だけだった。


「ロロナちゃん、いつも楽しそうに料理を作るよな」


 聞こえてくる楽しげな様子にそうつぶやくと、親父さんがあからさまな溜息を吐いた。


「ロロナが料理を作るのが好きなのは否定せんが、あそこまで楽しそうなのはライの料理を作ってるときだけだぞ。そもそも、わざわざ自分で料理を作ろうとするのはお前相手だけだ。俺も追い出されたしな」


「そういえば、最近親父さんの料理食べてない気がするな」


「今度作ってやるから、今はロロナの料理を食べてやってくれ」


「わかってるよ」


 ロロナちゃんの料理は、使っている食材や調味料が同じなのでほぼ親父さんと同じ味だが、やはり少しだけ味が異なった。言うまでもなく親父さんの方が美味しいのだが、それを口にするほど俺も馬鹿ではない。


「ライ。実際、ロロナはどうなんだ?」


「どうなんだって、なにが?」


「お前もさすがにロロナの気持ちには気付いてるだろう?」


「まあ、好意を寄せられてることは薄々」


 ロロナちゃんがわざわざ俺にだけ手料理を振る舞ってくれる理由くらいは、よく鈍感だと言われる俺にだって察せられるのだ。


「ロロナももう十六歳。結婚してもおかしくない年だ。お前にいい相手がいないならどうだ?」


 フレンス王国で結婚できるようになるのは男なら十八歳、女なら十五歳である。男女で差があるのは、やはり男が所帯を持つにはそれなりの稼ぎを要求されるからだろう。


 十三歳で学校を卒業後、ほとんどの人間がどこかに弟子入りをして、十八歳の成人のときに一人前と認められることが多い。騎士学校を始めとした上級学校も、卒業は十八歳になったときだ。


 結婚適齢期は、結婚ができるその年から男女ともに約五年間と言われている。俺もロロナちゃんも、ちょうど結婚適齢期的には真ん中のあたりだ。俺と同い年で子供がいる人間も、そう珍しくはない。


 けれど――正直、結婚なんて考えたこともなかった。


「俺の今の稼ぎじゃ、結婚してもロロナちゃんに苦労させるだろうしな」


「つまりいい相手はいないってことだな」


「いや、俺の話聞いてた?」


「馬鹿。お前、ヒュドラを倒したんだろうが。どう考えても、これから先ガンガン稼げるだろう? 騎士にだってなれる可能性は高いんじゃないか? そうなりゃ、稼ぎを理由で相手に苦労かけることはないだそうさ」


「それは……そうかも」


 結婚を考えたことがなかったのは、相手がいなかったのもあるが、今の自分の立場では結婚なんてしてはいけないという考えもあったからだ。今の俺が結婚して、相手を幸せにしてあげられるとは思えない。


 けれど今日、俺は周りの皆から認められた。名前がこのまま広まれば、報酬の高い依頼だって受けられるようになるだろう。上級冒険者と同じ稼ぎと考えると、結婚後の資金には余裕すら生まれるはずだ。


 つまり所帯を持っても構わない。これもまた、冒険者として名を上げた報酬である。


「よし。じゃあ、ロロナと見合いするか」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! いきなりそんなこと言われても困る!」


「なんだ? やっぱり好きな相手がいるのか? 偶に店に来る、あのギルドの受付のエルフ嬢ちゃんか?」


「リカさんはそんなんじゃないけど」


 五年近い付き合いだが、今まで一度だってそういう空気になったことがない。リカさんもリカさんで二十一歳ということで、なんか恋愛にあせっている素振りは偶に見せるのだが、あの美貌である。今でも引く手は数多であろうし、性格も可愛いことがわかれば結婚相手なんてよりどりみどりだろう。


 ……それはそれでなんかもやもやするけど。


「と、とにかく、見合いとかはやめてくれ。俺にはまだ早い!」


「早いことないだろうが。まあ、あと三年くらいは待ってやってもいいぞ。三年後、今のままだったら強制的にロロナと結婚させるが」


「させるんだ」


「させるさ。俺も孫の顔は早く見たい」


「子供。子供かぁ」


 結婚を考えたことがない俺にとって、自分の子供というのはさらに輪をかけて想像の外の生き物だった。


 孤児院で育った俺である。小さな弟や妹はたくさんいたが、それが自分の子供となるとどうなんだろうか? 可愛くて仕方がないと思うのだろうか? それとも立派に育てなければならないと苦労するのだろうか? 俺の子供はきちんと育ってくれるのだろうか?


 俺の子供は――果たして本当に人間の子供なのだろうか?


 気がつくと、俺は自分の右手を見つめていた。


 思えば、こうして時折自分の手を見る癖がついたのはいつからだったか?


 今ならその理由がはっきりとしている。ふと目を離した瞬間に、この手が怪物の手に変わっていないかが不安だったのだろう。ヒュドラとグィンゲッツとの戦いを通じて改めて自覚しただけで、本当はもうずっと前から、無意識下では自分で自分の異常性には気付いていたのだ。


「ほれ」


 唐突に、手のひらの上に乗せられるものがあった。


 俺の手のひらを隠すくらい大きな、切り分けられたシフォンケーキ。え? と顔を上げて親父さんを見ると、親父さんは調理場の方を盗み見ながら、何度見ても見慣れない不器用なウィンクを送ってくる。


「俺が作ったケーキだ。食事前に渡すとロロナに怒られるから内緒でな」


「……そういえば、昔、こうして親父さんに差し入れをもらってたっけな」


 学校時代を思い出しながら、シフォンケーキを頬張る。


 ふんわりと甘く、どこか懐かしいその味に、自然と顔がほころぶのが分かった。


「ロロナちゃんには悪いけど、まだまだ親父さんには勝てないな」


「当たり前だ。ロロナがうちを継ぐとしても、まだまだ修行が必要だな」


「調理スキルの?」


「情熱と真心だ。ライに出してるのと同じのを、他の客にも出せるようにならないとな。女の子としてはそれでいいかも知れんが、料理人としてはダメだろう」


「そんなになんだ。俺、愛されてるなぁ」


 最後の一欠片を口の中に放り込うと、最後まで味わって飲み込んだ。


 そのあと、俺は親父さんに言った。


「親父さん。愚痴、聞いてもらっていいか?」


「はいよ。お安いご用だ」


 返答は軽やかに。いつもと変わらない調子で、親父さんは頷いてくれた。


「実はさ、今日、ギルドで俺がヒュドラを退治したことをみんなに認めてもらうことができたんだ。信じられるか? 俺が王都最強の冒険者なんだってさ」


「そうか。よかったじゃないか。これで本格的に夢に近付けたんだろう?」


「ああ。みんなにはやし立てられて、照れくさかったけど嬉しかった。けどさ、そこにグィンゲッツっていう騎士が絡んできて、決闘を申し込まれたんだよ。それ自体はすぐに片が付いたんだけど、そのときに言われた言葉があるんだ。お前は本当に人間なのか、って」


「なんだその質問? ライはどこからどう見ても人間だろ?」


 ああ、だから俺は親父さんにはいつも甘えてしまうのだ。

 この人は俺が欲しい言葉を、本当に当たり前のことのように言ってくれる。


「……ああ、俺は人間だよ。人間なんだ。けど、どうも普通の人とは違うらしい。ステータスが読めないからなのか、普通の人にはない力を持ってる。俺にはそれがなんなのかわからないから、なんか怖くなって来てさ。もしかしたらある日突然、怪物にでもなっちゃうんじゃないかって」


「怪物ねぇ。けどまあ、お前なら大丈夫だろ?」


「大丈夫ってなにが?」


「いや、別にライが怪物って言ってるわけじゃないんだが、お前なら怪物になっても、ちょっと抜けた、みんなに愛される優しい怪物になれるだろうと思ってな。で、騎士になる騎士になるって口癖のように言ってるんだ。想像してみると、ほら、なんかそんな怪物はちょっと可愛くないか?」


 俺の脳裏にも、親父さんが言ってるような怪物の姿が思い浮かぶ。


 それは巨大な身体を持っていた。手にも足にも鋭い爪が生えていて、牙の生えそろった口なんて人を丸ごと飲み込んでしまいそうなくらいだ。


 けどその口から飛び出すのは炎ではなく、子供みたいな言葉で。きっと手には、自分の手のひらに比べれば小さすぎる剣を大事そうに握りしめているのだろう。それでみんなに認めてもらうために、あっちこっちに走り回ってモンスターを退治しているに違いない。


「可愛い怪物じゃダメだ」


 俺は笑って言った。


「俺は格好いい怪物がいいな」


「絵本に出てくるような怪物じゃなく?」


「ああ、怪物になったとしても、そんな人々を脅かす怪物と戦うような、そんな格好いい男になりたい」


 そうだ。結局のところ、なにも変わることはない。俺を取り巻く状況が変わって、俺が自分の強さと異常性を自覚しても、目指す未来はなにも変わらないのだ。


 約束の騎士に、俺はなりたいのだ。


 強ばっていた身体がほぐれていく。肩から力が抜けて、ようやく自分のいる場所がどこかわかるようになった。


「ありがとう、親父さん。なんか俺、色々あってふわふわしてみたいだ。ようやく自分のしたいことを思い出したよ」


「感謝されることはないさ。お前がお前の夢を叶えることは、俺にとっても夢みたいなもんだからな」


「じゃあ、もう少しだけ見ててくれ。俺は必ず騎士になるから」


「おう。そんときは大盤振る舞いで祝ってやるからな」


「期待してるよ」


 けれど――その前に。


「けど、だからこそ、しっかりとこの力の謎ははっきりとさせないとな」


 気にしない振りはもうやめよう。

 ずっと目を逸らし続けてきた真実を見つめよう。


 自分を守るために直視しなかったひとつの現実。ライ・オルガスという一人の人間が、他の誰かとは違う唯一無二にして絶対の理由。すべての原因にして、すべての始まり。


 それは――



「俺のステータス画面が読めない謎を解決しよう」


 

 それでこそ、俺は胸を張って自分の力と向き合うことができるのだ。


「そうか」


 拳を握りしめた俺を見て、親父さんは感慨深そうに言った。


「ライ。大人になったんだな、お前は」


「まあ、そうは言っても手がかりもなにもないんだけどな」


 俺だってこれまで色々とこのステータスの謎については調べてきたつもりだ。それでも見つからなかった。この謎の力に関しても、手がかりは……


「……いや、もしかしたらひとつだけ、手がかりがあるかも知れないな」


 思い出すのはひとつの存在。異常な力と得体の知れないステータスという点では、俺と類似している。


 問題は、その存在もステータス同様に謎深い存在であることなのだが。


「一度フレミアに、ドラゴンについてなにか知ってることがないか手紙を送ってみるか。あ、けど、フレミアがどこの街に暮らしてるのか聞いてない」


 世間話の一環で聞いた記憶はあるのだが、それはどこだったか。


 思い悩む俺の疑問に、答えてくれる声があった。


「フレミアちゃんはサンドウェルド在住だよ、お兄ちゃん」


「ミリエッタ? どうしてここに?」


 フレミアの暮らしてる街がどこなのか答えてくれたのはミリエッタだった。


 軽く親父さんに頭を下げたあと、俺をにらみながら近付いてくる。


「ようやくライお兄ちゃんが暮らしてる宿を突き止めたよ。もう逃がさないからね」


「に、逃がさないからって、今度孤児院には顔を出すって約束しただろ?」


「そう言う割には、ヒュドラを倒したあと一度も顔を見に来てくれなかったのはなんで? わたし、色々と心配してたんだけど」


「それは……」


 ミリエッタの身体を見る。今はどこも怪我をしていないが、ヒュドラを倒したあと、病院に運び込んだときは骨を何カ所も折る痛々しい姿だったのだ。無論、それは俺がヒュドラから庇うために思い切り遠くへ投げたことによる怪我だった。


「悪い。本当は最初に謝りに行かないといけなかった」


 俺は立ち上がり、ミリエッタに頭を下げた。


「もっといいやり方があったはずなのに、あんな力技で怪我させちまった。本当に悪かった」


「…………」


 ミリエッタからの答えはなかった。やはり怪我をさせられたことを怒ってるのだろうか?


 恐る恐る顔を見上げると、ミリエッタがものすごく呆れた目で俺を見ていた。


「ライお兄ちゃん、わたしね、実はお兄ちゃんとヒュドラが戦ってる最後の方では目を覚ましてたんだ。だから、ヒュドラがどれだけ強かったのかはわかってるし、それから庇おうとしてくれたお兄ちゃんの必死さもわかってるつもり。だから、怪我についてはまったく気にしてないから」


 ミリエッタは強引に俺に頭を上げさせると、背伸びをして、俺の頬を両手で押しつぶすようにして挟んだ。


「むしろ感謝感謝大感謝だから。はい、というわけで――ご褒美です」


「むぎゅっ!?」


「「ああ――ッ!?」」


 ミリエッタは無理矢理自分の唇を俺の唇へと押しつけてきた。しかも――うわっ、舌まで入れて来たんだけど!?


 そして前方と後方であがる悲鳴。見れば、宿の入り口と調理場の入り口から、それぞれリカさんとロロナちゃんが顔を出して叫んでいた。


「ぷはっ」


 俺も含めて突然のことに身動きの取れない三人を尻目に、ミリエッタは思う存分堪能したあとに口を離した。


 そのあと真っ赤になった顔で、俺に最初に言いたかったであろう言葉を告げた。


「すごく格好よかったよ、お兄ちゃん。まるで絵本に出てくる騎士様みたいだった」


「お、おう。……ありがとう、ございます?」


「ありがとうございますじゃないですよ、ライさん! なにしているんですか!?」


 リカさんが全速力で詰め寄ってきて、ミリエッタから俺を隠すように、俺たちの間に身体を滑り込ませた。


「ライさんを心配して追いかけてきたら、まさかこのような場面に遭遇するとは! 危険です! この人は危険です!」


「そうです、ライさん。わたしの小悪魔的立ち位置を脅かす侵略者です!」


 ロロナちゃんもリカさんに遅れること数秒、俺の傍まで駆け寄ってくると、先程のミリエッタのように頬を掴んできた。


「というわけで、わたしも行きます!」


「シャドウキリング!」


 特技を使ったリカさんがロロナちゃんの背後に回り、羽交いに締めして凶行を止める。暗殺者スキルってそういうことにも使えるんだなー、と俺はちょっと感心してしまった。


「離して! 離してリカさん!」


「ダメです。相手の意思を無視してそのようなこと、許されるはずがありません!」


「このヘタレエルフ! 乙女の時間は短いの! そんなだから行き遅れるんだよ!」


「へ、へたっ!? 行き遅れ言わないで下さい! エルフ的にはあと百年くらいは結婚適齢期なんです!」


 俺の頬の代わりにお互いの頬を引っ張り合うリカさんとロロナちゃん。


「まあ、がんばりたまえ。わたし的にはお姉ちゃんの味方なので、存分に足を引っ張り合うがよろしい」


 二人を尻目にどこか勝ち誇った様子のミリエッタ。


「大人にはなったが、まだまだ格好いい男には程遠いなぁ」


 そんな三人に対してどうしていいかわからず右往左往する俺を見て、親父さんが苦笑した。


「さて、そんじゃあ、少し早いがヒュドラ退治の祝賀会でも始めますかね」


 そのあと料理の支度を始める。ちょっと、俺をここに一人置いていかないで!?


「やっほー! ライくん! 祝賀会どうする――って、あれ? もしかしてもう始まってる感じ! だったらアタシたちも混ぜてちょうだいよ!」


「ルッフルさん、マジルッフルさん」


 そこへとさらに場をややこしくさせそうなルッフルがやってくる。しかもなんかすでに酔っている様子だ。両手には空っぽの酒瓶と、途中で無理矢理連れてこられただろうボンマックの姿があった。ルッフルに襟首をつかまれた姿で、ぶつぶつとなにかをつぶやいている。


「ほら、行くよボンマック! 辛いことは飲んで忘れるの!」


「ルッフルさん、マジルッフルさ……え? パーティー? ボンちゃんが参加していいパーティーなんてこの世に存在したの?」


 ボンマックも酔っぱらっているのだろうか?


「お? 今日はもう夜の営業やってるのか?」


「ライがいるぞ。こいつはちょうどいい」


「おう、聞いたぞ、お前ヒュドラを倒したんだって?」


「すごいじゃないか。お祝いしようぜ!」


「もちろんライの奢りでな!」


 さらに騒ぎを聞きつけて、常連の冒険者たちも店に顔を出す。

 中には俺の知り合いもいて、俺を祝いたいのか、ただ騒ぎたいだけなのかわからないが、一斉に店の中に入ってきた。


 これを見て、休憩に入っていた店の店員たちも慌てて戻ってくる。


 先程まで静かだった店内は、今やいつもどおりの喧噪に包まれていて。


「……ああもう、仕方ないな!」


 なんか俺も楽しくなってきて、やけくそ気味に叫ぶのだった。

 色々と考えるべきことは後回しにして、今はただ、夢に近付いたことをみんなで祝うために。


「ヒュドラ退治のお祝いだ! 今日は全部俺の奢りだから、みんな倒れるまで飲むぞ!」


『『おぉおおおお――ッ!!』』


 今日聞いたどこよりも大きな歓声が上がる。

 

 楽しい休日は、ここから始まるのだった。




はい、というわけで楽しい休日が始まるまでのお話でした。


次回、他者視点。


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