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だけど私は諦めない②



「システィナ。今からでも神学校に行くつもりはない?」


 部屋まで訪ねてきた私に、お母さんはそう聞いてきた。


 なんの用事かと思えばそのことか。


「前にも言ったでしょ? 私はシスターになるつもりなんてないから」


「そう」


 お母さんは困ったように微笑む。


「今日ね、お母さんの昔の知り合いからお手紙があったの。是非、システィナを神学校に迎え入れたいって。聖職者スキル持ちはあまり多くないし、中でもBランク以上の高い聖職者は貴重だから。好待遇で迎え入れてくれるらしいし、それでね」


「だからシスターになるつもりはないって言ってるでしょ! 何度も言わせないで!」


 なおも神学校を勧めようとするお母さんに、私は怒鳴りつけた。


「大体、元を正せば私が教会を信じられなくなったのはお母さんの所為でしょ! 隠れてこそこそとライの情報を教会に渡して、それでお金を受け取って!」


 ライのステータスが明らかになった直後、偶々見かけてしまった光景を思い出すと、恥ずかしくて涙すら浮かんでくる。


「お母さんは恥ずかしくないの? なにも知らずに慕ってくれるライに申し訳ないと思わないの?」


 さらに腹立たしいことに、お母さんはこうして指摘しても決して監視役を辞めようとしなかった。今まで何度も何度も辞めるように促しているのに、頑なに今の立場にしがみつき続けている。


 最初は別の誰かにライのことを監視されるよりも、自分で監視した方が、最終的にはライのためになるからと考えているからなのだと思った。そう信じたかった。


 けれど――それは違った。


 監視役という立場に罪悪感を覚えているのなら、その役割への対価を受け取るはずがない。


「……そんなにお金が大事なの?」


 泣きそうな声で問う。お母さんは否定することなく沈黙を保った。


 それは肯定したも同然だった。自分はお金のために子供を売ったのだ、と。


「最低! 最低じゃない! なによそれ信じられない!」


「システィナ、お母さんはね」


「もういい! いい訳なんて聞きたくない!」


 お母さんは傷ついた顔をしていたが、そんな顔をしたって絆されたりしない。

 

「私はライを売ったお金で生活なんてしたくない! それなら飢えて死んだ方がマシよ! 他の子だってそう思ってるに決まってるわ!」


「…………」


「お母さんなんて嫌い! 大嫌い!」


 そう言い残して、私はお母さんの部屋を飛び出した。


「システィナ! 待ちなさい、システィ――」


 後ろからお母さんが呼び止める声と、軽く咳き込む音が聞こえてくる。


 だがそれを無視して私は走った。すれ違った子が驚いた顔で見てくるが、滅多に誰かが来ることのない敷地の片隅まで止まることなく走り抜ける。


「はぁ、はぁ」


 涙と汗をぬぐい、息を整える。


 最悪の気分だった。自分の母親があんな恥知らずな人だなんて信じられない。


 けど結局のところ、私だってお母さんのことを悪く言えない。


 ライにお母さんが監視役だと伝えるのが怖くて、その結果ライがこの場所からいなくなってしまうことが怖くて、ずっとライにこの事実を隠し続けている


 その上で、私はこれまでお母さんがライを売って得たお金で生活してきた。他にも寄付金とかあるだろうけど、それでも私たちが孤児院暮らしとは思えない水準の暮らしをして来られたのは、間違いなく普通の孤児院よりも教会からの援助金が多いからだろう。


「いっそのこと、ライに全部話して、二人でここを出て行こうかしら。貧乏な生活になるだろうけど、それはそれで、お金なんてなくなって人は幸せになれるってお母さんに分かってもらえるかも」


「――さて、それはどうかな?」


 私のつぶやきに対し答える声があった。


「誰?」


 声のした方を見ると、そこには建物に背中を預けるようにして腕を組んでいる、仮面をつけた一人の騎士の姿があった。


 教会側から命じられてライの監視をしているお母さんと同じく、騎士団側から命じられてライの監視をしている年齢性別その他諸々素性不明の人物。ライ名付けて仮面の騎士だ。


 会うのはこれが初めてのことではないが、当然、私がこの騎士にいい感情を抱いているわけがない。


「なにか用なの?」


「なぁに、君があまりにも子供じみた癇癪を起こしていたから、少しばかり気になっただけさ」


「あ、あんたね……」


 こめかみがピクピクと震えるのが分かる。


 ライの監視役だからというだけでも不愉快なのに、この騎士はとにかく癪に障ることばかり言ってくる。ライはもう慣れたとか言っていたが、私はいつまで経っても慣れない。心なしか、ライよりも私に対してさらに口が悪い気がするし。


 いや、落ち着け。落ち着くのだ、私。ここで怒りに流されてはいけない。


「ふんっ、また盗み聞き? 騎士ともあろう人が情けないわね!」


「盗み聞かなくても、あんな大声でしゃべっていれば嫌でも聞こえるというものだ。この孤児院にいる他の子にも当然聞こえていただろう。君もここにいる子供の中では年長者の一人なのだから、もう少し配慮した方がいいのでは?」


「ぐぬぬぬぬ」


 反論できなかった。みんなに心配かけないようにしたい、というのはずっと思っていることだ。そこを指摘されると弱い。


「それに、だ。システィナ・レンゴバルト。君は汚い仕事を引きうけるよりも、飢えて死んだ方がマシと叫んでいたがね。それは実際に飢えたことがない人間の台詞だよ」


「……お腹が空いているなら、自分の子供も同然の存在を売ってもいいって言うの?」


「よくはないさ。それは人道に反する行為だろう。けれど実際にそうする親はたくさんいた。特に戦時下ではね。そうして多くの子供が孤児となった」


 実際にその光景を見てきたかのように仮面の騎士は語る。


「戦時下の孤児院なんて、それは酷い有様だった。教会からの援助は届かず、国からの援助はもらえず、当然周囲も助けてなんてくれない。普通の人間ならば、まずこの時点で他者への思いやりなんて忘れるだろう」


「そ、それでも、そんな状況でも人を思いやれる人間だっているはずよ!」


「そうだな。君のお母さんなんて特にそうだろう。家族のためならなんでも出来る。なんでもしてみせる。そういう献身の心を持った人間だ。だからより苦しむ羽目になる。他者の痛みを自分の苦しみだと感じてしまう優しい人間にとって、あの環境は地獄だっただろう」


 それは私にとって想像しかできない世界だった。私は生まれてから今日まで、仮面の騎士の指摘どおり、飢えたことなんて一度もない。


 お母さんが、そうしてくれた。自分と同じ苦しみを味合わせないように、と。


「……お母さんって孤児だったの?」


「知らなかったのか? アメリナも――」


 そこで一度仮面の騎士は言葉を切り、


「君のお母さんはここの孤児院の出身さ」


「そう、だったんだ」


 それは初めて知った事実だった。


 私がお母さんについて知っている経歴は、お母さんが若くして私を生んだことと、私を生んだあとに教会からの戦後援助の一環でシスターとなり、この孤児院に院長として派遣されてきたことだけだった。


 けど言われてみれば、私はお母さんの血縁者を誰も見たことがなかった。


 それを言えば、私は自分の父親の顔も知らない。昔、一度父親について聞いたことがあるけど、お母さんは困ったように微笑むだけで教えてはくれなかった。


 あるいは、お母さんも知らないのかも知れない。前々からそう思っていたけど、今の話を聞いてさらにそう思った。私が生まれる前のお母さんの職業は、直接聞いたりなんてしてないけど、どうしても周りの噂で耳に入ってしまうものだ。


「お母さんって孤児、だったんだ」


「そうだ。だから彼女は、今この孤児院にいる子供たちを飢えさせないために、守るために、なんでもするだろう」


「じゃあなに? ライはお母さんにとって守るべき子供じゃないって言うの?」


「そうは言ってない。君のお母さんは間違いなく、ライ・オルガスを愛しているだろう。だが同じように君や他の子供たちのことも愛している。愛してしまっている。だから全員のことを考えて、罪の炎に身を焼かれながらもこの道を選び続けるしかない。一番辛いのは彼女だろう」


 だからそんなに恨んでやるな――そう仮面の騎士の目は語りかけていた。


「……じゃあ、私はライにどんな顔して会えばいいのよ。一番辛いのはライに決まってるじゃない」


 その私の言葉には、仮面の騎士も返せる言葉を持っていないようだった。


 ああ、やっぱり私もお母さんと同じなのだろう。


 この孤児院は大切だと思っている。

 ここにいる家族を大事に思っている。


「……私、ライが好きなの」


 それでもシスティナ・レンゴバルトにとっての一番は、ライという一人の少年なのだ。


 昔は守るべき弟のように思っていたのに、いつの間にかそうなっていた。


「やはり君たちは親子だよ。騎士になる夢なんてものを追い続ける、そんなどうしようもない男ばかりを好きになる」


 私を見て、仮面の騎士は嘆くように言った。


「だから君の母親がそうだったように、君もまた愛したもののために自分の身を犠牲にすることに躊躇なんて抱かないだろう。……そうされた側の気持ちなんて無視をして」


 そう零して、仮面の騎士は煙のように立ち去った。


「お~い! システィナ!」


 そのすぐあと、入れ違うようにしてライが駆け寄ってくる。


 私は隠れてもう一度涙をぬぐい、髪を整えると、ライに向き直った。


 毎朝の日課である剣の修行を帰りなのだろう。その首筋やひたいには汗がにじんでいる。それを半ば反射的な行動で、ポケットから取り出したハンカチでぬぐいながら聞く。


「どうかした? 私になにか用?」


「いや、システィナじゃなくて仮面の騎士に用があってさ。あいつの気配がこっちにあった気がしたんだけど」


「そ、そうなんだ」


 どうやら成長著しい私の幼なじみは、ついに気配なんてものを読み取れるようになってしまったらしい。


「仮面の騎士になんの用なの?」


「ほら、あいつって一応は騎士だろ? だから衛兵のことも色々知ってると思ってさ」


 ライの夢は騎士になることだ。けど騎士になる最短の道である騎士学校には進学できなかった。そのため、ライは他の手段で騎士になろうと考えている。現役の騎士からの推薦による入団だ。


 この条件においては、やはり現役の騎士たちの目にとまる職につく必要がある。一番目にとまる可能性が高いのは、同じ戦場で戦うこともある兵士である。戦時下ではない今、一番なじみのある兵士は街の衛兵だろう。ライはこの衛兵になることを狙っていた。


 他にも推薦での入団という条件では、冒険者になって名を上げる、というのもひとつの手ではあるのだが、ライ自身があまり冒険者というものにいい感情を抱いておらず、なおかつステータスが読めないという条件では冒険者ランクを上げにくいという問題もあったため、衛兵の方を目指していた。


 学校を卒業後、衛兵の募集があれば応募したり、直接詰め所に行って掛け合ってみたり、時に無給で手伝いなどもしているようだったが、今のところ上手く行っていないようだった。


 だからこそ、騎士である仮面の騎士から助言をもらおうとしているのだろう。


 ライは夢を目指して、今も必死にがんばっている。きっと騎士学校を落ちたとき、リグ先生と色々とあったのだろう。目に見えて最近のライは燃えていた。


 ……ちょっと悔しい。


 ライが一番なんでも話せる相手は、恩師であるリグ先生なのだろう。それがずっと一緒にいた身としては、少しだけ悔しかった。


 私が幼なじみだからか、あるいは女だからか、ライは私をあまり頼ってくれない。泣き言も言ってくれない。弱いところも見せてくれない。


 唯一、私に直接吐いてくれたのは、あのときの一言だけだった。


『――俺、普通のステータス画面がよかった』


 だからなのだろう。この言葉がずっと、私の胸と頭の中で響いている。


 どうにかしてあげたくて。

 普通のステータスにしてあげたくて。


 あの日からずっと、私は欠かすことなく神様に祈りを捧げている。


 どうか。どうか。と、いつも同じことばかり祈っている。


 どうかライのステータス画面を普通のものにしてください、と。


 ……後になって思えば、私だけがずっと囚われ続けていたのだろう。


 ライが、ニルドが、それぞれステータスだけではない生き方を見つけていたのに対し、私だけがずっと教会の掲げるステータス至上主義の考えに囚われ続けていた。ステータスがすべてとは言わないけれど、それでもステータスこそが重要なのだと、心の奥底ではその考え方から離れられないでいた。


 だから私は選ばれた。


 その夜、私も知らないうちに、ソレは私を選んでいたのだ。






       ◇◆◇






 朝、目を覚ます。


「ん~」


 軽くのびをして、二段ベッドの下のベッドから出る。


 他のベッドを覗き込むと、そこにはみんなが気持ちよさそうに眠っていた。まだ朝も早い。学校までは時間があるし、もう少し寝かせておいてあげよう。


 私は手早く最低限の身だしなみを整えると、他のみんなを起こさないようにそっと歩き、いつもどおりの軽い力で部屋の戸を押し開けた。


 メキメキメキィという音がして木の扉が壊れて外れてしまった。


「へ?」


 突然の出来事に私は素っ頓狂な声をあげて、取れた扉を持ったまま立ちつくす。


 扉は蝶番から外れてしまっていた。それも留め具が錆びたり、木が腐ったりして取れたというわけではなく、強い力で無理矢理引きはがされたようにして外れている。


 なにこれ? どういうこと?


 意味が分からないまま、自然と手の力が入っていたのだろう。


 今度は私の手の中でドアノブがひしゃげ、接触面が剥がれた扉が廊下に倒れ込む。


 二度、三度と響いたけたたましい音に、私が眠っていた部屋だけではなく、他の部屋の扉もいっせいに開いて、中から眠たそうな顔をしたみんなが顔を出す。


「……システィナお姉ちゃん、なにしてるの?」


 ミリィが金属の取っ手を手に呆然としている私を見て、そう言った。


 それを教えて欲しいのは私の方だった。






 壊れた扉をそのままにしておくわけにも行かないので、とりあえず壁に立てかけておいてから、私は箒を持ってきて破片を掃除しようとした。


 けれどこれも上手くいなかった。


 まず掃除用具の入った物置の扉を開けようとしたところ、またしてもその扉を破壊してしまった。さらに慌てているうちに廊下の床を踏み抜き、つかんだ箒の柄をへし折ること二回、ついにはミリィから邪魔という一言で追いやられた私は、混乱するままに日課のために礼拝堂を訪れていた。


「なんなの一体? どうしたっていうのよ?」


 自分の手を見つめる。


 いくらうちの孤児院が古くてあちこちにガタが来ていると言っても、いきなり扉が取れたり、床が抜けたりはしないはずだ。


 と言うよりも、あの壊れ方は自然と壊れたという感じではなく、無理矢理強い力で壊されたといった方がしっくり来る。ライが孤児院の敷地内で剣の修行をすることを禁止される原因となった、あの勢い余ってごめんなさい事件と現場の被害の感じは似ている。


 けど馬鹿みたいに鍛えているライならともかく、乙女な私の腕がそんな馬鹿力を発揮するはずがない。レベルだって六だし、筋力の能力値だって同レベル帯の平均値くらいだ。


「オープン」


 その事実を改めて確かめためにも、私は自分のステータスを呼び出した。



 システィナ・レンゴバルト

 レベル:6

 経験値:639  次のレベルまで残り165

【能力値】

 体力:139

 魔力:68

 筋力:14

 耐久:14

 敏捷:17

 器用:20

 知力:77

【スキル】

 聖女:S 熟練度1000



「……クローズ」


 そっとステータスを閉じる。


 目をこすって、深呼吸をして、


「オープン」


 もう一度ステータスを開く。



 システィナ・レンゴバルト

 レベル:6

 経験値:639  次のレベルまで残り165

【能力値】

 体力:139

 魔力:68

 筋力:14

 耐久:14

 敏捷:17

 器用:20

 知力:77

【スキル】

 聖女:S 熟練度1000



「…………」


 無言で自分の変わり果てたステータスを見つめる。


 名前、レベル、経験値、能力値、そのあたりは数日前に見たときと変わりなかった。


 けどたしかに存在していた私のスキル、『聖職者』『治癒魔法』のふたつのスキルが消えており、『マジック』に至っては表示されていた場所ごとなくなっていた。


 その代わりに存在している『聖女』というスキル。聖女ってあの聖女だろうか? しかもSランクで熟練度は最終到達値である一〇〇〇と来たものだ。なんだこれ? どういうことなんだろう? 混乱のあまり声も出ない。


 こんなに驚いたのは、あの日、ライの読めないステータスを見た日以来だろうか?


 私は目の前の現実をどう受け止めていいか分からずに、ステータスを目の前に呆然としていた。


 すると、名称とランク、熟練度以外になにも書かれていなかった聖女スキルの説明欄に、突如として一文が浮かび上がってきた。


【スキル】

 聖女:S 熟練度1000

 はじめまして。ようやくステータスを開いてくださいましたね。 


『はじめまして。ようやくステータスを開いてくださいましたね』


 同時に、脳内に直接語りかけてくる声があった。


「誰!?」


 慌てて周囲を見回すが、礼拝堂に私以外の姿はない。


『ここです。あなたの目の前にあるステータス画面です』


 再び脳内に声が響く。


【スキル】

 聖女:S 熟練度1000

 ここです。あなたの目の前にあるステータス画面です。 


 前を向いてステータス画面を覗き込むと、聖女スキルの説明欄に先程とは違う文面が書かれていた。


「嘘でしょ? ステータス画面が語りかけてきてるっていうの?」


『ええ、そのとおりです。わたくしはあなたのステータス画面よりあなたに話しかけております』


 声が響く。ステータス画面が変わる。


 それは本来あり得ない事象であった。熟練度の数値上昇以外で変化が起こるのは、ボーナススキルの獲得のときだけ。つまりステータスが付け足されることはあっても、元々持っていた自分のスキルが変わったり消えることなどあり得ない。


 いや、その事象自体はすでに観測されている。


 この世界でたった数人のみの間で確認されている、生まれながらのステータスの後天的変化事象。


 俗に『超越』と呼ばれている事象だ。


 なるほど超越を起こした超越者の中には、たしかに聖女と呼ばれる存在もいる。


 ただし、伝え聞く超越とはスキルの熟練度が一〇〇〇に達したときに起こりうるスキルのランクアップであって、持っていたスキルが消えたり、ましてや説明文が変わってステータス画面が話しかけてくるなんてことは、これまで一度も聞いたことがなかった。


『驚かれるのも無理はありません。これは秘匿され続けていることなのですから』


 混乱する私に対して、動じた様子もなく、むしろ手慣れた感じで声は語りかけている。


『ご安心下さい。詳しい説明はこれからさせていただきますので。その手始めとして、まずはわたくしの自己紹介をさせて下さい』


 私の意思とは関係なく、私のステータス画面はすーと動くと、いつの間にかその場にへたり込んでいた私の顔の前まで移動する。


 そしてお辞儀をするように画面を傾けて、


『改めてはじめまして、システィナ・レンゴバルト。我が新たな聖女よ。わたくしはフィリーア教の初代聖女であるフィリーア・ヴァレンタイン――』


 そこで一端言葉を切ると、ステータス画面は頭を上げるように正面を向いてから続けた。


『――によって誕生した唯一無二のレアスキルであり、彼女の意思を受け継いでこの世界の守護と管理を司るもの』


 そしてソレは自分のことをそう称した。


『聖女スキルと申します』


 


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