だから俺は諦めない⑩
「感動の場面に水を差すようですまないが」
俺が泣きやんだ頃を見計らって、仮面の騎士が話しかけてきた。
「そういえば、あんたは一体? 手助けをしてくれたみたいだが」
リグ先生が怪訝そうな顔で仮面の騎士を見る。
俺の監視役ということを知らなければ、これほど怪しい人物もいないだろう。
「先生、その人は大丈夫だよ。俺の、まあ、護衛みたいなもんだから」
けど仮面の騎士はリグ先生を助けてくれた。あるいは、名目上は護衛対象である俺を守ったのか。どちらにせよ、教会に気を遣わないといけない立場にもかかわらず、手助けしてくれたことには感謝してもしきれない。
「ありがとう。やっぱりあんたも騎士なんだな」
「そう何度も言ってるはずだがね」
泣きはらした顔で告げたお礼の言葉に、仮面の騎士は肩をすくめてみせた。
「そんなことより、リグ・カミュー先生。あなたのことだが」
仮面の騎士はリグ先生に向き直り、その身体を観察する。
「私の見立てでは、すぐに治療できる者のところまで運ばないと、その傷では死んでしまうと思うけど?」
「えっ!?」
驚いて、俺もリグ先生の身体についた傷を確認する。
すごい傷だった。顔から下は焼けただれていて、したたり落ちた血が足下に小さな赤い水たまりを作っている。この傷では俺が叩いたり触れただけで激痛が走ったことだろう。それでもリグ先生は今の今までそんなことなどおくびにも出さず、逆に気付かれたことにバツの悪そうな顔をする。
「り、リグ先生! すぐに治療しないと! そうだ、システィナ!」
治癒魔法の使えるシスティナなら、リグ先生の傷を癒せるはず!
俺はニルドの身体の上で眠っているシスティナを叩き起こす。
「え? ちょ、なにしてるのライ! 寝込みを襲うなんてそんなことしなくても!」
「アホなこと言ってないで、リグ先生に治癒魔法をかけてくれ!」
システィナは至近距離にあった俺の顔に頬を赤くするが、リグ先生の状態を見て、慌てて駆け寄るとステータス画面を開く。
「そんな慌てなくて、も……」
同時に、いよいよ限界に達したリグ先生の身体がぐらりと倒れ、俺は慌ててその身体を受け止める。けどその身体は重くて一緒になって倒れかけたところを、仮面の騎士が片腕でまとめて支えてくれた。
「残念だが、その傷はヒーリングでは間に合わない」
リグ先生を床の上に横たわらせた仮面の騎士が、残酷な事実を告げる。
「そんな……リグ先生、俺の所為で」
「気に病むな、ライ。お前を助けられただけで俺は満足さ」
「せんせぇ……」
「感動的な場面に何度も水を差すようで、実に申し訳ないのだが」
仮面の騎士が、首根っこをつかんで俺をリグ先生から引きはがした。
「私が然るべきところまで彼を運べば、十分治療は間に合う。安心するといい」
「本当か!?」
「ああ。深いといえば深いが、ヒーリングよりも強力な治癒魔法があれば問題ないだろう」
ならすぐにでも運んでもらわないと。
そう思った俺たちを、システィナがむくれた顔でにらみつける。
「もう、人がせっかく治療しようとしているのに、横でごちゃごちゃしゃべらないで!」
「けどシスティナのヒーリングじゃ、リグ先生の傷は治らないって」
「そうね。ヒーリングじゃ無理ね。だから――」
システィナはステータス画面の魔法の項目に指を滑らせ、マジックウィンドウを表示させた。
「祝福の光をここに。道半ばの旅人に一時の安らぎを」
「ほう」
システィナの口にした詠唱を聞いて、仮面の騎士は小さくその口元に笑みを浮かべた。
「なるほど。ライ・オルガス。お前のがむしゃらな努力は、あながちすべてが無駄でもなかったようだな」
そう、その詠唱はヒーリングの詠唱ではなかった。
これまで毎日傷ばかり負っていた俺のことを、怒りながら、泣きながら、それでも見捨てることなく治し続けてくれたシスティナの治癒魔法の熟練度は、いつの間にか一〇〇を迎えていたのだ。
「キュアライト」
これまで以上に強く温かな輝きが、リグ先生の優しく身体を包み込んでいったのだった。
「あなた!」
「おとーさん!」
「すまんな、お前たち。心配をかけた」
家に戻ってきたリグ先生を、奥さんと娘さんが涙ながらに出迎えていた。
そのすぐ近くでは、なぜかニルドと保護された呪術師の咎持ちの少女が、なにやら話し込んでいる。
システィナは俺の背中だ。新しく覚えたキュアライトの魔法は魔力の消費がかなり激しいらしく、リグ先生を治療したあと疲れて眠ってしまった。
システィナがずり落ちないように体勢を変えつつ、俺は隣に立つ仮面の騎士に話しかける。
「なあ、どうして俺のことを助けてくれたんだ?」
「言っただろう? 私の任務は君の監視兼護衛だと」
「けど教会側に配慮しないといけない立場じゃなかったのか?」
仮面の騎士の連絡によってやってきた人たちによって、どこかへと引き取られたバレル司祭のことを思い出す。
「あのバレル司祭、一応は教会の偉い司祭様なんだろ? 腕を切っちまって良かったのか?」
「さて、少なくともあの時点では私は正しい判断をしたと思っている。君の先生が君のことを庇っていなければ、そのときは私が君を庇っていただろう」
「なんだ。色々と言いつつも、俺のことをやっぱり心配してくれたのか」
「違うさ。何度も言わせないで欲しいな。君の命を守ることは私の任務の一環であるし、それに……」
「それに?」
仮面の騎士は俺の瞳を覗き込む。俺の中にあるなにかを見透かそうとするように。
「あのままもしもバレル司祭の攻撃が君に当たっていたら、恐らくはバレル司祭の怪我は腕一本では済まなかった。そう思ったからこそ行動しただけさ」
「なんだよそれ? どういう意味だ?」
「さあ、どういう意味だろうな。私も分からない。ただの勘だからな」
仮面の騎士はローブを翻すと、俺に背中を向けた。
「だからもうしばらくは君の傍で見ているとしよう。君の真価を推し量れる、そのときまでは」
「よく分からんけど、助けてくれたことはありがとな!」
仮面の騎士は軽く手を振ると、闇に溶け込むように消え失せた。
騎士なのに騎士らしくないその振る舞いも、前ほど不快には思わなかった。きっと、彼とは長い付き合いになる。そう思った。
「ライちゃん」
「ん?」
仮面の騎士を見送っていた俺の服の裾を、小さな手が引っ張った。
足下を見ると、リグ先生の娘さんが俺のことを大きな瞳で見上げていた。
「ライちゃん。おとーさんを助けてくれてありがと」
「そんなお礼なんて。むしろ今回は俺がお父さんを巻き込んだんだ。だから、ごめんな」
しゃがんで目を合わせて謝ると、リグ先生の娘さんはぶんぶんと首を横に振った。
「ううん、ライちゃんがおとーさんを助けてくれたの。だって、おとーさん。すごく嬉しそうに笑ってた」
それからにぱっと笑って、背伸びをすると、俺の頬に軽く口づけしてくれた。
「ありがと、ライちゃん。お礼に大きくなったら、ロナが結婚してあげるね」
「あはは、楽しみにぐへっ!」
急にシスティナのしがみつく力が強くなって、俺は苦悶の声をあげる。
「……ライの馬鹿」
「お、お前、実は起きてぐふっ! や、やめろ! く、首がしまる!」
悶え苦しむ俺を見て、おしゃまな四歳児はきゃらきゃらと笑った。
「ぐっ、俺の可愛い娘が! けど他の男に取られるくらいなら!」
リグ先生は娘の成長に、血の涙を流さんばかりに歯を食いしばる。その横で奥さんが頬に手を当てて苦笑していた。
そしてリグ先生と同じくらいの恨めしそうな目で見てくるのはニルドだった。
「くっ、なぜだ! なぜライばっかりがいい思いをするんだ!」
「お、お前だって、もう帰っちまったみたいだけど、あの子となんかいい雰囲気だったじゃないか」
咎持ちの女の子は、やはりどこか影のある子だったけど、見た目は抜群に可愛い子だった。逆になんでニルドだけが話しかけられるんだと、ちょっと嫉妬してしまうくらいである。
話しかけられたときはニルドも鼻の下を伸ばしていた。今はなぜか顔を青ざめさせているが。
「最初は俺も告白されると思ったんだ。ほら、俺って剣士スキル持ってるし」
「そうだな」
今回、あんまり活躍してないけどな。
「他の誰でもなく俺に話しかけてきたときは、この子見る目あるなと思ったんだ。結果的に助けたことも感謝されたしな。咎持ちだけど、まあ仲よくしてあげてもいいかなって。けど」
「けど?」
「……私の友達をたくさん壊したことは絶対に許さないって。呪ってやるって」
「うわぁ」
そういえば、俺とは違ってニルドは完全に人形とかを壊してたな。
「もちろん、冗談とは思うけど。ほら? 本当に人を呪ったりしたら、あの子も捕まるし? だから冗談だとは思うけど……冗談だよな?」
「そうだな。そうだといいな」
「そうだといいなじゃねえよ! 歩いていたら箪笥の角に小指を頻繁にぶつけるように呪いとか、落とし穴には絶対にはまる呪いとか、本当だったらどうするんだよ怖すぎるんだけど?!」
「なんだよ。結構、かわいい呪いじゃないか」
「かわいくないわ! あと極めつけが、今以上に身長が伸びなくなる呪いをかけるって!」
そ、それはかけられたら嫌だな。
ニルドの奴も、八歳にしてはかなり身長も高く図体もでかいけど、このまま伸びなければ将来的にはかなり小柄な男になってしまうだろう。
「ニルド。悪いことは言わない。今からでも追いかけて謝ってこい」
「や、やっぱりそう思うか? よしっ、ちょっと行って謝ってくる! ついでに俺の裁縫スキルで人形とか直してくるわ!」
え? ニルド裁縫スキルとか持ってたの?
そういえば、剣士スキルだけがすごいすごいと言われてたけど、それ以外にないとは誰も言ってなかったな。
駆け去っていく幼馴染みの背中を見て、脳裏に人形を必死に直している姿を想像する。
なかなかどうして似合っているではないか。
図体は大きいが、顔はどちらかと言うとお母さん似の女顔だしな。
なお、後で聞いた話にはなるのだが、ニルドの裁縫スキルのランクはCランクらしい。しかも家でこっそり刺繍などをして上げていたのだとか。がんばって人形を直そうとしたところ、呪いもひとつだけで勘弁してもらえたそうだ。
それがどの呪いなのかは、ニルドの将来を見て判断するとしよう。どうせこいつとも、まだまだ長い付き合いになるのだから。
◇◆◇
そうして俺の読めないステータスを巡る最初の事件は終わりを告げた。
バレル司祭は罪に問われることはなかったそうだけど、地方の教会に転属となって二度と会うことはなかった。
仮面の騎士はその後も俺の監視を続けていたし、結局、教会側の監視役が誰なのかも分からないままだった。
それでも平和な日々が戻ってきた。
相変わらず周りの俺を見る目は変わらないけど、それでもリグ先生の言うとおりに、もうそれを必要以上に気にしないことにした。
俺は俺だ。小さなステータス画面の中に俺はいない。
それを分かってくれる人が周りにいてくれる。なら今は、それでいい。
そうして一年が過ぎ、二年が経ち、学校生活も残り半分になった頃、嬉しい出来事があった。
「よっしゃあ!」
力いっぱい吼え、俺は全身で喜びを表現する。
俺の足下ではニルドが目を回して倒れ伏している。
周りの生徒たちは皆、信じられないといった顔で俺のことを見ていた。
「嘘だろ? ライがニルドに勝ったぞ」
「前から攻撃が当たるようにはなってたけど、まさかそんな」
ステータスが分かったあとの護身術の授業で、俺は初めてニルド相手に勝利することができたのだ。
これも毎日、必死になって努力した結果だ。もちろん、付き合ってくれたシスティナには感謝しないといけない。
治療のために、戦わないのに護身術の授業を受けていたシスティナが、口を手で押さえ、涙をぽろぽろ零して俺の勝利を喜んでくれていた。
グッと拳を突き出し、親指を立てる。
システィナも同じように指を立ててくれた。
「も、もう一回だ!」
そのとき、目を覚ましたニルドが起きあがって俺に詰め寄ってきた。
「ライ! もう一度、もう一度勝負だ! 今度は絶対に負けねぇ!」
「おっと、俺たちの勝負は一試合に一度じゃなかったのか?」
まあ、最初は俺も何度だって負けを認められずに挑んでいったからな、受けて立ってやるけどね!
「ふっ、残念ながらニルド。もうお前じゃ俺には勝てないよ」
三年分の喜びでじゃっかん調子に乗っていたのだろう。
そのあと滅茶苦茶負けました。
そこからしばらくは十回に一度くらいの勝率だった。けどそれがだんだんと五回に一度ほどになり、三回に一度は勝てるようになって、さらに一年が経った頃には五分と五分にまで持ち込めるようになっていた。以後は少しずつ俺の勝つ回数の方が多くなっていって、最後の方では俺が挑むのではなくニルドの方が勝負を挑んでくる形になっていた。
そういう感じに、ニルドとの試合を経て騎士としての強さを培っていた俺だけど、もちろん騎士は腕っぷしの強さだけでは務まらない。
俺はリグ先生に個人授業をお願いして、騎士にふさわしい教養を教わることにした。
もちろん、隣にはニルドの姿もある。
「騎士は国防の要だが、王族の護衛などで儀礼式典などにも出席する必要性がある。だから二人共、その考えるより先に手が出る癖をなんとかしないとな」
「あとこの機会に言葉遣いも改めたら?」
先生のお手伝いをしているシスティナがそう言ったので、俺とニルドは顔を見合わせる。
「つまり敬語を使えということでございますですね? 楽勝ですわよ」
「あとは自分のことをワタシとかボクとか呼ぶべきということでございますですね。簡単すぎて笑えて来ますですわ」
「「これは酷い」」
リグ先生とシスティナが声をそろえて言った。おかしい。俺たちの完璧な敬語のどこにおかしな点があったのだろうか?
結局、二人による矯正は俺たちがきちんと敬語をしゃべられるようになるまで続けられたのだった。
可能なら、常日頃から言葉遣いを改めた方が将来的にはいいと言われたけど、さすがにそれは丁重にお断りをさせていただいた。自分らしさを捨てようとは思わない。
「ニルド、なんか自分のことボクって呼んでる方がかわいいわね」
「システィナさんがそうおっしゃられるなら、ボクは今日からこれでずっと行きますよ!」
「お前嘘だろ!?」
もっとも、恋の前には自分らしさなんてクソ喰らえな奴もいたわけだが。
周りの協力を得て、頭を腕を鍛え上げた俺とニルドは、もうすぐ学校を卒業するという頃、騎士になるための登竜門である、騎士養成学校の入学試験に臨んだ。
「どうやら一次試験の応募者同士の模擬戦、俺とニルドは別々の会場みたいだな」
「残念だな。この晴れの舞台で、ライをたたきのめしてやりたかったんだけどね」
「ば~か。そうなったら、今日も俺が勝つに決まってるだろ?」
「馬鹿って言うな馬鹿。言っておくけど、通算成績はまだボクの方が一勝多いからね?」
「一勝だけだろ? すぐにひっくり返してやるさ。なんだったら、試験のあとにでもやるか?」
「望むところさ」
俺とニルドはにやりと笑い合い、そのあと拳をぶつけ合った。
「受かれよ、ライ。君がいないと張り合いがない」
「ニルドこそ。昔みたいに調子にのって足下をすくわれるなよ」
お互いに激励を残して、お互いの模擬戦の場所へと移動する。
ああは言ったけど、正直、ニルドに関しては心配していなかった。剣の実力は申し分ないし、リグ先生とシスティナの教育の賜で、自分のこともボクと呼び言葉遣いも丁寧なものになった。もちろん俺もやろうと思えば敬語を使えるし、自分のことを私とだって言えるけどな。
それに、ニルドという俺のライバルを語る上でこういう言い方はあまりしたくないが、ニルドにはAランクの剣士スキルがある。合格は間違いないだろう。
不安なのはむしろ俺だ。剣の実力はニルドを超えた。知識だって詰め込んだ。
けれど、やはり変わらず俺のステータス画面は読めない。いくら俺や俺の周りがステータスを気にしないといっても、世界はやはりステータスを中心に回っている。
「ええい、弱気になるな!」
俺は自分の頬を叩き、気合いを入れ直す。
最大の関門はステータスの開示を必要とする面接試験だが、まずは目の前の模擬戦だ。案内では勝敗は合否に直結しないと書かれていたが、それでも勝つに越したことはない。ステータスの読めない俺は、自分の力を実際に戦うことでしか示せないのだから。
そういう意味でも、戦う相手はニルドが良かった。あいつなら俺も本気で戦える。
ニルドには劣るとしても、ある程度の実力者であればいいんだが……
「ふははははは! 貴様がこのオレの対戦相手か! なんとみすぼらしい平民だ!」
俺の対戦相手は、なんというか、昔の調子に乗っていた頃のニルドをそのまま成長させたかのような、そんな図体がでかく態度の大きい男だった。
「オレはフレンス王国にその名を轟かせる名門中の名門、ニルヴァーナ家の次期当主! グィンゲッツ・ニルヴァーナである! 代々、Bランク以上の戦闘系スキルを持たなかった者のいない我が家にふさわしく、なんと、なんとAランクの剣士スキルを有する大天才である!」
おお、ニルドと同じAランクの剣士スキル持ち! これは期待できそう! 最初から本気で行くぜ!
「かの『大剣聖』閣下の後継者とも名高いオレと戦えることを光栄に思えよ!」
あ、審判の人が開始の合図を送った。
まだ話しの途中みたいだけど、ニルドと同じ実力者なら攻撃していいよな?
「だが貴様も運がなかったな。オレ以外であれば勝てる可能性もあっただろうが、オレ相手では一撃で終わだぐぎゃべっ!?」
「へ?」
近付いて軽く剣を振るっただけで、対戦相手のなんとかさんは派手に吹っ飛んでいってしまった。
そのまま起きあがってこないので、審判の人が確認しに向かう。おい、やめてくれ。嘘だろ?
「勝者! ライ・オルガス!」
どうやら気絶しているらしい。これ、俺が強いというか、あいつが弱いって審査員に捉えられないか? まったく実力見せられてないんだけど!? どうするんだよおい!?
嘆いても遅い。ステータスで相手を判断してしまった俺も悪いのだ。
気合いを入れ直し、俺は第二次試験の面接に臨む。
試験管は王国騎士団から派遣されてきた三人の現役騎士たちだった。
彼らは俺と同じタイミングで面接を受けた、なんちゃってニルドさんに期待を向けているようだった。なんちゃってニルドさん、俺に負けたことが相当ショックだったのか、すごく丁寧に受け答えをしている。というか、俺にビクビクしてなんかびびってる?
「ありがとうございます。さすがは多くの騎士を輩出しているニルヴァーナ家の後継者ですね。騎士として、その謙虚さは美徳ですよ」
「は、はい。あ、ありがとう、ございます」
「では次、ライ・オルガスくん。君のステータスを見せてください」
「はい!」
なんちゃってニルドさんが椅子に座るのと同時に、俺は勢いよく返事をして立ち上がる。
「オープン!」
そして自分のステータスを、審査員の騎士の人たちに見せた。
「これは!?」
「ステータスが読めない!? 馬鹿な!?」
「いや、噂には聞いている。黒の案件であったはずだ」
審査員たちが騒然となる。
なんちゃってニルドさんも、目を剥いて驚いている。
やはり俺のステータスはどこへ行ってもこういう扱いを受けるのだ。それはもう覚悟していた。
その上で俺を見て欲しい、知って欲しい、そう思って口を開く。
……いつだったか、仮面の騎士にお前は騎士になりたいのではなく、ならなければいけないと、そう思っていると指摘されたことがある。
それは事実だろう。けれど、すべてでもない。
学校での五年間を通じて、俺は分かったのだ。
どうして俺が騎士になりたいと思ったのか、その始まりにある気持ちがなんだったのか。
目を閉じれば思い出す。亡くなった母さんの優しい笑顔と、その言葉。
騎士はすごくかっけーと言った俺に、母さんは言った。
『そう。ライにとって騎士は、誰よりも格好いい人のことを言うのね』
俺が本当になりたいと思ったのは、王国騎士ではない。
さながら物語に登場する理想の騎士のように。誰かの危機に颯爽と駆けつけられる、そんな格好いい男なのだろう。
俺にとっての理想像に一番騎士が近かったから、だから俺は騎士に憧れた。
そして今も、そんな最高に格好いい騎士に憧れている。
あの日、自分の命を賭してまで俺を守ろうとしてくれた、格好いい男のように。
俺も騎士となって、多くの人を助けるのだ。
「はじめまして、俺の名前はライ・オルガスです!」
その夢を叶えるために、俺は叫んだ。
「たしかに俺のステータスは誰にも読めません!」
それは認めないといけない。現実は受け入れないといけない。
「スキルだってわかりません!」
だけど気にすることなく傍にいてくれた幼なじみに誓って。
「けど絶対に高い剣士スキルを持ってる!」
強くなるために一緒に研鑽した友人に誓って。
「俺は誰よりも強くなる!」
涙を受け止めてくれた恩師に誓って。
「夢は――騎士になることです!」
ライ・オルガスは、この夢を絶対に諦めない。
残りあと一話。感想返しはそちらでまとめて行いますね。




