092 教えると習うと言う事(裏返し)
話は裏返って、習う方の問題。
世の中には、師匠とは間逆に、
天才的に『理解力の鈍い』人間がいる。
まさに、師匠にしてみれば、
『器がザルで出来ている人間』-いくら水を注いでも零れていってしまう。
そういう人間がいる。
ちなみに、
私は生徒の中で鈍い人間の筆頭の一人である(自爆)
真面目に、
「生まれる前に神様が理解力のパラメーターを全て他の人に振り分けてしまっているのではないか、」
と悩んだことがあった。
色々あって、なんとか師匠の話が少しずつ頭に入るようになってきた。
師匠によれば、
「少しずつ人の話を聞くようになってきた」
との事である。
ここにおいて、
習うとはどういうことだろうか?
と考えるようになった。
生徒の中でも理解力が高く、
武術の扉を開けたと師匠が言った先輩は、
「たった一滴でも良いから、『今日学んだ事』を持って帰れ」
と我々に言った。
「師匠はとてつもなく高度なことを言っている、すべて理解するのは無理かも知れない、でも、その内のたった一滴で良いんだ」
と。
私事であるが、
師匠が指導して、
その当時は私には出来なかった技術が有った。
それを気にしつつ、普段の稽古会の中に、
少しずつその技術を交ぜて練習していたら、
3カ月ほど後、『出来ている』と言われたことがある。
認識の重要性、
そういう理屈が有って、師匠はそう動いている、
その様に認識して、
理屈を気にしつつ、そう動いているだろう師匠を見ながら、
自分もそうなるよう気にしながら動く、
時間をかけて行くことで、
その時は出来なかった事を、
出来ることに変えていくことが出来る。
出来るようになる速度は、
師匠と比べて雲泥の差であるが、
今すぐ出来なくても、時間をかけて出来るようにしていく。
「持って帰れ」とはそう言うことなのだろうか?
師匠の言葉を、『その場限り』にしていかないよう、
気をつけなければならない。
日々、教えてもらえる技術には毎度驚くばかりであるが、
その前のことはもう練習しなくなっていないか?
習ったことは、積み重ねていくのであって、
上書きすることではない。
師匠は、
「生徒には色々なタイプがいる、だから、俺も色々な教え方をする。その内のどれか一つの教え方に『引っかかって』くれれば、出来るようになる」
と言っている。
『積み重ねる』事がまだ出来ない生徒に対しての教え方の工夫である。
だから、この場合は、
積み重ねなくても良いから、同じ平面上に並べるだけでも良い。
これも『上書き』ではない。
せっかく師匠が言葉として教えてくれたものなのだから、
覚えておく事はとても大事である。
『師匠』を自分の家に持って帰る事はできない。
けれど、『師匠の言った言葉』は自分の家に持って帰ることは出来る。
陰と陽、
師匠がやってみろと言ったことが出来るまでを上記で書いたが、
師匠が近頃特に良く言うことは、
それ以上に重要な事として、
師匠が『やるな』と言ったこと。
師匠が、やってみろと言って出来ないのは、下手だから。
師匠は「それは仕方がない」と断言しているのだから、
やってみろと言って、『出来ない』のは(まだ)良いのである。
師匠が『やるな』と言ったこと。
師匠が『やるな』と言って出来ないのは、
『言いつけを守っていないから』
『やるな』は、やってみろと言ったことより遙に簡単なこと。
「やるな、と俺が言った内容は、難しい事ではない、違うか?」
と、師匠は言う。
曰く、『相手に体重をかけて押すな』
曰く、『地面を足で上に蹴るな』
曰く、『落ちるな』
曰く、『緩めてだれ下がるな』
特に一つ目の『相手に体重をかけて押すな』
相手がいなくて、ただ一人で、形の上でやるだけなら、出来る。
いない相手に体重なぞかければすっころぶ事間違いなし。
相手がいると、とても難しい。
相手に何かしようとすると、出来なくなる。
相手に体重をかけてしまう。
だからこそ、これは『持って帰る』ことが出来る。
自分の家には、練習相手がいないから、
やってみろではなく、師匠が『やるな』といった事を、
練習できる。
師匠が『やってみろ』と言ったときは、
それは、稽古で相手がいるとき、師匠が見ているときでしか出来ない、
師匠が『やるな』と言ったことは、
いつでもどこでも『やらない』練習が出来る。
今は出来なくても、積み重ねて、いつか上手くできるように、
『持って帰って』練習していく事が出来るとの事。
どうやって?
それは何度も師匠が言ってきた方法論。
型をやる時の基本中の基本、
私が入門して一年もしないうちに聞いた方法。
型をやるときの基本‥‥‥‥‥‥
と、ここまで書いてきて、ひどく憂鬱。
結局、真理は、方法は、
一生懸命、上に書いてきた事とは別に、
入門して一年もしないうちに師匠から習っていたわけである。
理屈を知らないでも、『師匠の言ったとおり』やっていれば、
今頃出来ていたのだろう。




