077 メンタルその2
メンタルその2
子供の頃虐めに遭っていた。
家では姉に、
学校ではある生徒に。
虐めた相手を恨んで呪っていたこと。
そういう自分自身をひどい人間だと嫌っていたこと。
師匠からはまず、自分を認めることを言われた。
自分がその時代を生きて行くには、
恨むしかなかったんだと、
呪うしかなかったんだと。
それは納得した。
しかし、自分を虐めた相手に対する恨みは消えていない。
恨むことは悪いこと。
人を呪わば穴二つ。
理屈上はわかっていた。
それでも恨みは消えなかった。
理不尽。
ただの暇つぶしで虐められた。
ただ面白いから虐められた。
怒りは今も続いていて。
なんで虐められなければならなかったのか。
相手が自分を気に入らなかったのは解る。
それでも虐められた方は、理不尽に晒された怒りが残る。
二十年、三十年経った今にして、怒り最大に達するほどに。
虐めた方は忘れる。
あっさりと。
虐められた方は覚えている。
ねちねちと。
それも嫌であった。
いっそすぐ忘れてぼーっと、へらへらと過ごせていたらと思う。
さて、姉の事に師匠がこう言った。
「姉の方も事情があって、追いつめられていた、お前を虐めなければ、壊れてしまうほどにな」
今まで吐きそうになるほど、
喉にせり上がっていたものが、
腹の下に、落ちた。
暇つぶしで虐められていたのでは、なかった。
ただ面白いからという理由ではなかった。
すとん、と、腹の下に落ちた。
これが、『腑に落ちる』ということなのか。
師匠が続ける。
「見方を変えると、おまえを虐めた相手を、お前が救ったことになる」
まあ‥‥‥‥しょうがないか(嫌だったけど)、と思うようになった。
虐められるのは嫌だ。
しかし、それが理不尽でなかったという理由が、『腑に落ちた』
溜まっていた怒りは、落ちた。
師匠は、これもまた『タイミング』だという。
「ちょっと前なら、お前はこの理由を聞いても納得しなかった」
そうなのだろう。
納得してしまった今では想像できないが、
そうなのだろう。
人を恨んで恨みきっている時は、
何を言っても、聞かないのだろう。
師匠と出会って、
色々あった。
師匠に色々な事があり、
それに影響される形で、
私にも色々あった。
その流れがあって、今が『タイミング』であった。
その次にも行かなければならない。
行けるかもしれない、と思った。
師匠の言葉
「だからさ、そろそろ許してやりなよ。」
それとは別に、
学校で虐めてきた相手には、
未だ許す気はない。
40年近く前の事で、
そいつが今何をしているかも分からない。
本当なら探し出して毒でも飲ませてやりたいとも思う。
ただそんな奴を探すのに金を掛けるのも嫌である。
しかし、武術に於いて、
ひとつだけ有益な事があった。
『凶』や『殺気』を出す事が出来るようになった。
師匠のお手本。
師匠が私の胸に向けて寸止めの突きを出す。
普通に突いて来られても特に反応はない。
ところが師匠が『殺気』を使って突きを出すと、
寸止めなのに何故か生徒は後ろにバランスを崩して下がってしまう。
別段何時も練習の時に突きを寸止めで出してもらうのと変わりない。
だのに自分の意思と無関係に体が後ろに下がる。
何故か?
師匠「殺すつもりで突きを出すとこうなる。やられた方は無意識で怖がって後ろにタタラを踏む」
殺すつもりなのに『寸止め』
訳がわからない。
練習しても出来なかった。
師匠「恨みのある奴の顔を思い出してそいつに当てるつもりで打ってみろ」
次の瞬間、成功した。
相手はやっぱり本人の意思と無関係に退がった。
漫画やアニメで、
「よく銃を的に当てるには、自分の嫌いな奴だと思って的を撃つ」
とか、
「サンドバッグを憎い相手だと思って打つ」
などの表現があるが、
本当にこれが有用だとは思わなかった。
後は手四つに組んで、
壁に押し付けられた状態から、
憎い相手だと思って押し返すと、
相手を返す事が出来た。
因みに、生徒の一人が、
「あんまり人が憎いと思った事はない」
と言っていて、
彼は最後まで上手く出来なかった。
師匠「本当に殺したい相手と思ってやると、『無意識の力のブレーキ』が外れるから出来るとの事。




