065 心眼-相手の幻惑攻撃に対して目を閉じて対抗できるか?
心眼-相手の幻惑攻撃に対して目を閉じて対抗できるか?
バトル漫画の中の王道展開に、
心眼で相手を倒す、と言うのがある。
相手の幻惑攻撃でピンチになる主人公。
その時主人公がとった行動はまさかの『目を閉じる』事。
幻惑に惑わされない様にするには目を閉じれば良い‥‥
そうして主人公は相手の攻撃を心眼で破り勝利を得る‥‥
と言う流れであるが、
そんな事は本当にあるのだろうか。
実はこのテンプレ、
二つの武術の術理が合わさって出来たものであり、
個々の要素としては正解なのであるが、
二つを合わせて使うと不可能なのである。
一つ目の話は、
江戸時代、
とある禅僧が、
用事で友人の剣豪のいる屋敷に向かう途中、
辻斬りに出会った。
禅僧は、
「申し訳ありませんが、外せない用事があります。必ず斬られに戻って来ますので御猶予をいただけませんでしょうか?」
と言って、辻斬りの侍もそれを了解した。
用事を終えた禅僧は、
ふと思い出して、
辻斬りの話を友人の剣豪にうち明け、
「もし斬られる時に何か失礼の無いような作法が有れば教えて戴けないでしょうか?」
と尋ねた所、
剣豪は、自分の刀を渡して、
「目を閉じて、刀を抜いて上段に構えなさい、
そしてお腹がひやっと冷たくなったら剣を振り下ろす、それが作法です」
と、答えた。
禅僧は剣豪にお礼を言って、
辻斬りのいる所に約束通り戻った。
そして辻斬りの前で刀を抜いて、
目を閉じて上段に刀を構えた。
それを見た辻斬りは、
「考えたな、相打ちでは割りに合わん、今回はやめじゃ」
と言って去っていったと言う。
てな話だった筈。
因みに作法を教えた剣豪は柳生の当主だったと思う。
剣術を知らない禅僧が、
目を閉じれば、
相手の辻斬りと『相打ち』となる事ができる、と言うエピソードである。
あくまでも『相打ち』であり目を閉じて『勝てる』訳ではない。
二つ目は、私が実際に見た話。
昔、D流柔術のO宗師の会派のR会の稽古を見学させて戴いた事があり、
O宗師「合気は、目を閉じた相手には効きが悪くなる」
と説明しながら、
生徒に合気を掛けていて、
生徒が目を開けている時は完全にかかるが、
生徒が目を閉じていると効きが30%程度になってしまっているのを見た事がある。
三つ目は『心眼』。
後ろからの攻撃を読んだり等、
某ニュータイプの様な真似ができるか?
私の会派で面白いものを見せて貰った。
聴勁の練習。
師匠は上級者に目を閉じさせて、
生徒Aとスローモーションでの組み手をさせた。
すると、
上級者は、全て生徒Aの攻撃を避けた。
更には組み手の最中に、
師匠が生徒Bに上級者に後ろからゆっくり殴りかかる様に指示して、
生徒Bは音を立てずに上級者の後ろに忍び寄り、
ゆっくり攻撃した。
上級者はそれすらも避けた!
その後目を開けた上級者に今の事を説明したら、
「やってる最中に攻撃の気配が二又に分かれたので、あれ?、おっかしいな〜と思ったらそれだったか」
と言った。
これは心眼とほぼ同じだと思われる。
ならば、バトル漫画の王道展開の心眼の話は可能なのではないか?
それは不可能だと言う事が、
分かるエピソードを私は見た。
D流柔術のR会では僅かな期間だけ、
外部の人間にO宗師の技を体験させて貰える機会があり、
(普段は見学のみOK)
こちらの会派からも何人か参加させていただき、
幾つか技を教えていただいた。
それを私の習っている会派の中で保存しようと練習していて、
目を閉じていると合気の掛かりが悪くなる話をしたところ、
師匠「うん、でも中国武術が合気を喰らうと例え目を閉じていても100%かかってしまうよ。」
と言って、
生徒に目を閉じさせて合気技をかけると、
普通に掛かった、
そして私もかかった。
「何故ですか?」
師匠「だって俺らは、目を閉じてでも相手の動きを読める様に聴勁の練習しているから、
それは見えていると同じなんだよ」
つまりは、相手が幻惑する技を使ってきた時に、
心眼を使える様にと目を閉じると、
結局『目が開いているのと同じ』で幻惑する技はかかってしまうと言う事である。
相手の幻惑挙動に掛からない様にするには、
完全に相手を見ない様に目を閉じて更に『心眼も閉じてしまう』事になるので、
師匠「普通に殴られて終わりだよー」
との事。




