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武術覚書  作者: asada11112
125/187

125 勝つと思うな思えば負けよ



美空ひばりの歌『柔』に

「勝つと思うな思えば負けよ」

という一節がある。


ここしばらく習っているのは、

そんな内容。


あるいは、

闘鶏に関連した中国の逸話、『木鶏』(大横綱、双葉山の逸話としても有名)

の内容とも、かぶる。


これは、技術である。

一般的な解釈の

『油断しない』とか、『謙虚に』

などの精神論ではない。


人間の脳味噌を走るプログラムのコントロールと、

それに対する相手の反応の問題。


実際、師匠の指導の下で、

制圧技術を掛け合ってみると、


相手の掛けてくる技が、余りにも、

カックンカックンと掛かり過ぎて、


訳が解らないやら、自分が情けないやら、

苦笑いと半笑いとため息が出る。


(一応、私でも同じ現象が起きた。)


そして、それこそが、『勝つと思わず戦う』理由なのだという。


師「掛けられた相手に敵意が湧かないだろう?」


師「普通に力ずくで技を掛けれたらムカッと来て、負けるか!!、と思うだろう?」


師「これの場合、相手が最初から勝つ気ゼロで掛けてくるから、反抗する気にならない。」


師「だから技を掛けられて『笑い顔』が浮かぶんだよ。」


さて、多分、もしもこれを読んで試して見ても、

上手く出来ないだろうと予想される。


幾通りかの段階を踏んで、

『相手を無視しながら、相手に技を掛けていく』

という、とても矛盾だらけの真似をする必要がある為である。


正直に言うと、

『本当は、実験技の掛け合いでも、自分でも出来るとはおもわなかった』


ちなみに、最初に武術において、

『相手を無視』する事は、

相手に型通りの技を掛ける際に必要とされる。


それを注意されるのが入門して1~2年


以前、書いたと思うが、

初学のうちは、

型通りに技を掛けているつもりでも、

思いっきり姿勢が崩れ、

手足があさっての方向を向き、

胴体やら頭がおかしな方向に傾いてしまっている。


初学の人間は、

それで『正しい姿勢』と思っているから始末が悪い。


師匠に鏡の前で技を掛ける様に言われ、

技の途中で鏡を見させられ、

そこでようやく姿勢の崩れを実感させられ、


改めて技をかけ直し、

師匠に姿勢を修正してもらい、

自分の感覚と実際の身体の位置のズレが、

『ここまでズレるのか!!』

と絶望的になる。


それもこれも、相手を意識するからである。


確かに初心の型は下手であるが、

相手に技を掛けようとしたほどには、姿勢は崩れない。


つまりは、相手を意識するからあそこまで姿勢が崩れる訳であり、


師匠の言う

師「相手を無視して型通り動けば技は掛かる」

が実践出来ていない。


イコール師匠の言う通りやっていない。


いくら自分ではやったつもりになっていても、

思っているだけで全然出来ていない。


師匠の言う

師「それはただ念じているだけ。いくらやっても無駄」

という状態。


でもって、

その次の段階を説明してもらったのは、

大体その2年後くらい。


『相手を目の前にして局面を別の場所にずらす』

という事を見せてもらった。

『戦術的な局面』は相手が居ることで相手との間に発生する。

これを意図的に別の場所に持っていく。


どえらい矛盾な技術。


これも以前、書いたと思うのだが、


もう、訳が解らない。

師匠と軽く打ち合って、魔法で空間を歪ませられたとしか思えない程に圧倒された。


(当時、どれだけ試しても出来なくて絶望した覚えがあった。

まあ、そんな事はあまりに当たり前すぎて、途中から絶望のストックが

無くなってきたわけであるが)


それが、『局面をズラす』事の効果であり、

ある意味、究極のズル的な戦術である。

将棋や囲碁で、どんどん碁盤を自分の都合のいい場所に継ぎ足す様なものである。


やられた側は圧倒されて、

もう、相手にならない。

勝負にならない。


そう、

それはつまり、

向こうが相手をしてくれない、

向こうが勝負をしてくれないからこそ、

発生する現象。


『勝つと思うな思えば負けよ』

の一節の通り、な訳である。


師「勝とうと思って戦えば、勝つ事もあり、負ける事もある。

勝とうと思わずに戦えば、負ける事も無い」


まだ、納得出来ないかもしれない。

武術は一撃必殺と言う幻想に取り憑かれているせいかも知れない。


現実は違う。

最初の一手で勝負がつく囲碁や将棋は無い。


範馬勇次郎や、ケンシロウや孫悟空が、

碁盤に碁石を叩きつけて碁盤を粉々にするファンタジーしか思いつかない。


実際には、数手のやり取りが最低でも存在し、

『勝とうとしない』側は、負ける確率ゼロ。

『勝とうとする』側は、負ける確率二分の1


さてここで問題。

負ける確率ゼロのくじ引きを引き続ける人と、

負ける確率二分の1のくじ引き引き続ける人、


どちらが先に負けるか?


意外に少ない手数で、

勝とうと思わない人間が勝ってしまう現象が、

武術において発生してしまう訳である。


で、

例の歌詞の引用元の武術家は、それを知って居たはず。

一体誰だろうと思って調べたら、


なんと武術家ではなく、

『双六の名人』が引用元だったと言う、

とっても愉快なオチが待っていた。


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