115 対岸に行ってしまった人
太極拳の練習中、
師匠から注意が飛ぶ。
師匠「挙げた手を降ろす時、きっちり筋肉を働かせろ!」
師匠が一生懸命説明しているが、
生徒の何人かは、
なかなか出来ず、
苦労している。
師匠「………何回言わす気だよ」
ため息を、
ついている。
深く、深く。
生徒の何人かは、
忘れているのかもしれない。
少なくとも、
この体の使い方を注意され、
師匠が一生懸命説明して、
懇切丁寧に指導したのは、
過去2年程から数えて、
最低でも四~五回になる事を。
そのたびに師匠は色々な説明の仕方を工夫しているのだが。
私が覚えているのはM先輩。
当時、彼は普通に出来て、
私は出来なかった。
M「起勢式で師匠が説明してたじゃないですか」
手を挙げる時は地面を掴んで天に持って行くが如く、
手を降ろす時は、天を掴んで地に持って行くが如く。
M「本当にそのつもりでやって行けば良いんですよ。」
やりましたよ~、
私、
それで時間は掛かりましたけど、
師匠から
「ちゃんと出来てる」
と言われる様になりましたね~。
馬鹿みたいに徹底して。
やりつづけて、
2年ほどかかりましたっけ。
だから、これに関しては、
出来ない人間の気持ちは分かるものの、
同情しません。
はい。
ただ、その日来ていたK先輩(ナンバー2)に、
起勢式の話をしたとき、
不思議そうに、
「え?、なんでそんな面倒な事を?、筋肉をその通りに使えば出来るじゃん?」
と言う答えが返ってきた。
あ~、
K先輩、向こう岸に行っちゃってる。
段階を登れば、必要のないイメージ。
私は今は、
空気を纏う、或いは水の中で体を動かすイメージを使っている。
使わないと、
師匠に、
「ほら~、筋肉がさぼっとるぞ~」
と言われる。
果たして私は向こう岸に行けるのだろうか?
私はこっちの岸の人間だけれども、
「時間はかかるけど、師匠の言ったことを守ろうと頑張れば、出来るようになる、
またはそうなる指導を師匠はしている」
というのは知っている。
現在の私の持っているタイムラグはおよそ半年。
ゆーておくけれども、
私が、今、師匠から
「出来ている」
と言われたことは、
少なくとも、最低半年前に指導されて、
必死で続けてきたことだったりする。
つまり、
私が、今、師匠から
「出来ている」
と言われたことは、
少なくとも、
「半年前にも同じような指導を受けたこと」
てーことである。
ただ、
私「しまったあああああ!、聞いたことあるけど忘れて練習してなかったあああああっ!」
てなことも結構ある。
やらなかったら、出来ない。
当たり前なことであるけれど、
やったら出来る、というのも、本当。
全てではないにしろ、
師匠は沢山教えてくれるから、
その中の一つでも、
やってみい。
ずっと前から、M先輩がゆーとる。
「一滴でもいいから、師匠の渡したものを持ち帰れ」
って。




