111 八卦掌の練習風景
師匠「お前ら……もうちょっと頭を使えよ…」
私達生徒の散手(半自由組み手練習)を見ていた師匠が、
ため息混じりに言ったセリフ。
よ~し、使ってやろうじゃないか!
と、意気込んで相手にヘッドバット!
師匠「そーいう意味じゃねぇ!!、お前ら頭の中まで筋肉か!(怒)」
眉間に皺を寄せた師匠
曰く、
「頭を柔らかく使うんだよ!」
そういえば以前、師匠は、
頭部への打撃を化勁で柔らかく返すと言う高度な技を見せてくれた。
師匠「今度ボケたらシバくからね。」
私「……………」
頭を柔らかく使う。
それはどう言う事か?
八卦掌の練習にてその一端を垣間見た。
『走圏』
八卦掌の基礎中の基礎。
円周を正確に八歩で一周する事が要求される練習。
なかなかそれが上手く行かない。
尺が足りないか、
尺が余るか、
しかも、
いつも同じ大きさの円周を回る訳ではなく、
大きかったり。
小さかったり。
どうすれば、八歩で正確に一周できるのか?
四苦八苦している私達生徒に、
呆れ顔の師匠。
師匠「あのなぁ………一周って360度だろうが……
八歩で一周なら二歩で90度曲がれば済む話じゃないか。」
生徒「「あっ……」」
そう、
円周の『距離』を考えるのではなく、
円周の『角度』を考える。
これこそが走圏の重要なファクター。
それに気付かせる為に、
『どんな大きさの円でも正確に一周を八歩で歩く』
という厳しいルール設定が作られている。
それに気付くか否かが、
上達の条件。
………
……………
だった。
いや、教えて貰ってしまったから。
もうちがうわけで。
八卦掌は、
『角度の武術』
『方向の武術』
高度な術理への第一歩が走圏にあり、
弟子をふるいに掛けるシステムにもなって『いた』
(いや、私は答えを教えて貰っちゃったから。)
八歩のルールを絶対に守ろうとして、
そこは頑固に、
そして、それを実現させるための柔軟な思考を持った者にのみ、
その扉が開かれる……
『はずだった。』
(教えて貰ってしまったからなぁ)
師匠という存在は、有り難い、
と、つくづく思う。




