説話73 不死者は竜を食べる
『スルトさま。どちらにいかれるのですかあ』
「ちょっとね、ドラゴンを叩こうと思ってね」
今はセクメトと暗黒の森林の中にいる。
二人は分厚い落ち葉の上を歩いているんだ。フカフカしていてなんだかベッドの上を歩いてるみたいね。
『スルトさま。どこまでいくんですかあ?』
「ねえ、もう飽きたの?
嫌ならここで待っててくれてもいいし、異空間に戻ってもいいんだよ?」
アンデッドであるドラウグルは暗黒魔法の使い手。
セクメトは暗黒神の直属部下の中で最高の魔法使いで知られてる。
彼女は一瞬で生き物の生気や活力を吸い尽くし、数百のデュラハンを直属の騎士団として従わせ、無数に呼び出されるリビングアーマーはすごくうっとおしい。
その上にスカルエンシェントドラゴンを召喚できるから、この子はとても強いよ。
そんな強さを持つのだけど彼女は子供っぽいというか、はっきり言ってすごくわがままなんだ。
暗黒神もセクメトにはずっと手を焼いていて、それでセクメトはラーゼンバルクの迷宮最深層に放り込まれたとボクは思うのよね。
そんな彼女とボクは以前に大ケンカしたことがあってね、もちろんボクが勝ったなんだけど、それ以来はなぜか彼女に懐かれてしまったんだ。
『いやですっ。黙ってついて行きますからもうそんなことは言わないで。プンプン』
「はいはい」
プンプンを口で言っちゃったよこの子、やはりセクメトはイタい子なんだね。
それはそうとして先からなんだかこの森に住む魔族たちがボクたちから逃げてばかり。今日はワイバーンに用事があるから、森の魔族たちにご挨拶するのは今度だね。
『なんだ貴様らはっ! おれさまに食われに来たのか人間!
お前らは魔力はいっぱいあってうまそうだな!』
目の前にいるのはワイバーンというドラゴンだよ。
知能が高く言葉を話すことができるため、ドラゴニュートさんたちは好んで乗騎にしてるのよね。
ボクも一時期は乗ってたんだよ? 飛空魔法が使えるようになってからはその子は放してあげたけどね。
あの子は飛び去るときに、捨てるなんてひどいわとか言って泣いてたね。別に捨てたつもりはないけどなあ。あの子なら今でもボクの領地だった場所の上空を好きに飛び回ってると思うんだ。
そしてここにいるワイバーンはバカだと思う。
ボクとセクメトの実力を魔力がいっぱいとか言って、人間の国々に長居し過ぎたために敵の強さが読めなくなったと思うのよね。
まあ、どうでもいいよ。
どのみちこのワイバーンさんはここで終わるから。
『スルトさまあ。こいつは失礼なやつなんでウチが食ってもいいですかあ?』
「うーん、それはいいけど頭だけは形を残してね?
このワイバーンさんに親を食べられた子供がいるんだ。親の仇を見せてやりたいのよね」
『貴様らはなにを言ってやがるんだ! 抵抗をしてみろ。おれさまを楽しませてみろ!』
ワイバーンさんは翼を羽ばたいて、開いた口でドラゴンブレスをためているけど、ボクとセクメトにそれは脅しにすらならない。
妖艶そうに舌を舐めずりまわしてから、セクメトは瞬間移動でもしたようにワイバーンさんの首筋に飛び付いた。
『いっただきまーす。ガブッ』
『な、なんだ貴様あ……や、やめ……やめて…く…れ……』
見る見るうちにワイバーンさんは首だけを残して、その身体は干からびたように皮に骨がくっきりと浮かび上がった。
あっという間にワイバーンさんは絶命したようだね。相変わらずセクメトは仕事が早いよ。
『大して美味しくなかったけどごちそうさまあ』
さて、イザベラは夕食までには帰ってほしいと言ってたからね。セクメトを連れて挨拶しに行こうか。
お疲れさまでした。




