説話48 元魔将軍は仲裁する
『えぐ……それでね、暗黒神様がね、ダンジョンをちゃーんと守ればお日様の下で遊びに連れて行ってくれるって言うんだから、ウチもここに来ることを承諾したのよ?
それなのに何千年すぎても一向に連絡がないのよ?
ひどいと思わない? えぐ……』
「そか、辛かったんだね。よしよし」
ボクはいま、ドラウグルのセクメトの愚痴を聞きながら彼女を慰めてる。
イザベラはって? 失神中だよ、使えないったらないなあ。しょうがないペットだからそのまま寝かしておいた。
それにね、セクメトには言わないけど、ドラウグルは太陽の下には出られないよ? 溶かされちゃうよきみ。
暗黒神もわかってて言ってるだと思うんだ、部下を騙すなんて悪い上司だよね。まあ、ボクは関わりがないから口に出さないけど。
『スルトさまはウチを討伐しに来たの?』
「しないよ? ただどんなやつがいるかなあって見にきただけ」
『お願いがあるんですスルトさまっ!』
「なんだなんだ?」
セクメトがボクに寄りかかってきて、必死な目はなにかを訴えかけてた。
それはいいけど、なんでこんなに寄り付く必要があるのかな? 普通に話してほしいだけど。
『ウチをここから連れ出してくださいっ!』
「えー、それは無理だよ。だって、きみに命じたのは暗黒神でしょう?」
『お願いします。もうここにいるのは耐えられないです。
ウチもお日様の下でキャッキャウフフして、これでもかとくんずほぐれつ乳繰り合って揉みしだいていたいんです!』
「ええー、そんなの知らないよ」
『お願いします、もうウチが頼れるのはスルトさまだけなんです』
「そりゃどうでしょう、だれもここに来ないんだからね」
うーん。どうしようかな。この子泣いているしな――まっいいか、暗黒神にきいてみよう。
というわけでえ、ケイタイだね。
「もしもし、スルトだよ」
『……オレオレサギはどうした?』
「それね、もう満足したからまた今度。
それでえ、いま迷宮の最深層にいるんだけどね、セクメトがいるんだよね」
『……』
「逃げないでくれる? ボク、いま大変なんだけど?」
『う、うむ。ずっと考えてたけど誰もボスになりたがらないから困っているのだ。
ダンジョンは退屈だってよ』
「じゃあ、もしボクがなんとかできるなら任せてもらえるかな」
『任せるっ』
「わかった。ここはボクが何とかするよ」
暗黒神との話が終わったボクはケイタイをセクメトのほうに渡した。
彼女はなんのことがわからない表情を浮かばせたが、ボクと同じのようにケイタイを耳に当てた。
『あれ? この声は暗黒神様?』
どうやらセクメトにもケイタイの使い方が理解できたようだね。よかったよかった。
『――』
『……』
暗黒神はしきりとなにか言っているようだが、セクメトはなにかタメこんでいるようで黙ったまま。
その間にもこの場にやたらと冷たい空気が集まってくるんだ。
あ、イザベラがピクリと動いたよ。
『……暗黒神様の……バカーーーーっ!』
この空間を響き渡る声で、セクメトは絶叫ともとれる怒声を張りあげた。
それでも失神したままで起きる様子をまったくみせないイザベラ。ボクはその鈍感さに感動を覚えるくらい感心したよ。
お疲れさまでした。




