説話43 元魔将軍は無双する
料理を作るフリして料理を出す。
今回出したのは宿泊している宿の料理で魔王軍の料理じゃないから、イザベラは不満そうにするけど、今はどうでもいいのさ。
子供たちが大喜びで食べているからね。
「お兄ちゃん、これ美味しいね」
笑いかけてくれているのさきの女の子でミールという名前、キャッツ族である彼女は孤児。
この子供たちの中で一番大きいウルフ族の男の子アールバッツから聞いた話によると、彼や彼女らの親は獣人族の冒険者だったらしい。
暮らしをよくするためにひと稼ぎしようと、ここ迷宮都市に来てたが人間のクランに入って、ダンジョンアタックで親全員が死んだみたいのよね。
残されたアールバッツたちは生きるために、ポーターという荷物持ちの役を冒険者から雇われながら、貧しい日々を送ってると教えてくれたよ。
横で話を聞いてたイザベラが泣いていたけど、この話のどこに泣ける所があるのだろうね。
親を亡くした子が死ぬことは自然の摂理だよ? むしろここまで生き残ってきたことに子供たちを褒めてあげたいね、ボクとしては。
「ささっ、たーんお食べ? ほらほら、スルトちゃん? もっとお料理を出しておあげなさいな」
「はいはい」
なぜイザベラが仕切っているのだろうか?
だれがご主人様はきっと彼女は誤解してると思うね。
でも、ここは可愛い子供たちに免じて許してあげるよ、ボクは心が広いからね? イザベラのご飯抜きの罰は迷宮に出てからにしてあげる。
お腹いっぱい食べたイザベラはゴブリンを蹴散らし、子供たちは落ちてくるゴミを拾う。
――うん。とても退屈だねっ!
なんだか周りに人たちが集まり出したなあ。なにがあったのでしょうね。
「おい、あの女すごいぞ」
「ああ。パーティに誘えないかな」
「無理だろう、あれだけの使い手ならBランクはありそうだ」
「そうね、なんでこんなところでゴブリン相手に戦っているなのかしら」
なんか褒められているよ? よかったねえ、イザベラ。ご主人様のボクも鼻が高い。
「キャーっ!」
おや? 向こうで悲鳴が聞こえた。しかも聞いたことある声だよ、これはミールの声だね。どうしたんだろう。
そこに目を向けると、ミールたちを屈強な男たちが取り囲んでる。
「お前らが拾っているのは俺達のものだ、そのカバンごと寄越せ」
男はボクがミールにあげた異空間のカバンを取り上げようとしてる。アールバッツたちも抵抗するが、ほかの男に取り押さえられた。
「おい! 子供相手にひどいことするな」
「ああ? 俺達に逆らおうってのか?
クラン・デッドオアアライブを知らんのか? 口を出すな」
だれかが諫めようとしたが、そのクランなんちゃらの名前が出たとたんに黙り込んでしまった。
だけどね、異空間のカバンはボクがミールにあげたんだ。
ミールがあげるというのなら仕方ないけど、無理に取り上げるのは感心しないよ。
「やめなよ」
「なんだてめえ……イッギャアアっ!」
あ! 止めようと掴んだ手の骨が折れちゃったね、人間は貧弱だよ。
ごめんね? 止めるつもりだったのに手を折っちゃって。
「なんだてめえは! 俺達クラン・デッドオアアライブに逆らうのか」
「え? なにそれ、美味しいの?」
だからそのクランなんちゃらは知らないだってば。
それにね、そのセルフは聖女アラガキが教えてくれたのさ。なにか言われたときはそう答えればいいんだって。
まあ、ぼくは食べ物を食べないんだけどね。
「こいつぅ、クランの名が出た以上は引かないやつを殺す。
俺達はそういう決まりだから死にな、小僧。自分の無知さに悔いながら死ねっ!」
おおっ! この男たちは得物を抜いちゃったよ、見たところで8人だ。
死闘を挑まれた以上はボクも引かないよ? それが魔族の礼儀というものだからね。でもハンディキャップというやつだけはあげるよ。
勇者のムラカミは強い者が弱い者にかける情けみたいなもんって言ってたからね。
「そう、死闘ね。じゃあ、行くよ」
久々の死闘にワクワクだよボク。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……」
ありゃりゃりゃりゃ、全員死んじゃった、ボクびっくりだよ。
せっかくあんなに移動速度を手加減をしてやったのに、なんと貫手で心臓一発だけ。
弱すぎるよこの男たち、もっと鍛えないとオークもやれないよねそれじゃ。
まあ、死んじゃってるけどね。
お疲れさまでした。




