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説話34 元魔将軍は宿に泊まる

「イザベラ、下がってよ。あとはボクに任せていいからね」


「あらそうですの? わかりましたわよ」


 これがイザベラのいいところ、ボクが命令すると素直に従うんだ。うんうん、ペットはこうでなくちゃね。



「ねえ、お兄さん」


「ちっ、まだネバるつもりかよ、しつこいなおたくらもよ」


 機嫌が悪そうなお兄さんはさらに苛立ちげになって、舌打ちまでしているよ。


 なんなんだろうね、ご飯を食べてないのかなあ? 腹を空かせたイザベラもよくイライラするのよね。人間って面白いから見ていて飽きないよ。



「お金があればここに泊まれるの?」


「そうだよ。別にうちの宿だけじゃない、どこの宿でもそうだよ」


「じゃあ、これでいいかな?」


「――!」


 前にアルクスラン王国の金貨を出して失敗したからもうあれは使えない。


 でもボクはこの国の金貨を持っていないんだ。魔王様はくれようとしたけどはっきりいって邪魔だよ。いくら異空間に空きがあるとは言え、ゴミをわざわざため込むやつはいないよね? すくなくてもボクはしないよ。



 それならどうする? 答えは簡単。金貨の元となる(ゴールド)を出せばいい。これなら国とか時代とかは関係ない、いくらでも使えるんだ。


 魔王様と魔王領の征服と言って観光していた頃に、将来のことを考えて山々にある金鉱からそれこそ一山はある量の金を採掘してきた。それを魔法を使って最大純度まで加工したので、これならどこに出しても文句はないはずさ。



 だから、ボクはおおきな金の塊を一つ、カウンターの上に出したんだ。機嫌が悪そうなお兄さんはそれを見て固まってしまったがどうしたのでしょうね? やぱり空腹だったのかな。


 でも宿に泊まれるかどうかだけ確かめないとちょっと野宿は避けたいよね。イザベラを洗うのに、さすがに毎回毎回お外だと彼女も辛いと思うんだ。


 ペットを飼うのって、本当に大変だよ。



「これでどうかな、お兄さん」


「……ようこそ我が宿へおいでなさいました。本日は最高級のE.G.S.S.R、エクセレント・ゴージャス・スペシャルスイートルームのほうでお泊りになって頂くということでよろしゅうございますか?」



 あれ? お兄さんがニコニコしてすっごく人の良い顔になったね。機嫌が直ったみたいよ? 腹痛じゃなかったんだね。よかったね、お兄さん。


 周りにいる人たちからどよめきが起きているけど、どうしたんでしょうね。



「うん、それでいいよ。お金はこれで足りるかな?」


「無論でございます。つきましては……」


「お、おい小僧! その金塊をわしに見せてみろ!」


「え? いいよ」


 なんか人間のお爺ちゃんが鼻息を荒くしてボクに金塊を見せろとせがんできた。見たいなら見てもいいよ。自分で言うのもなんだけど、結構自信作なんだこれ。不純物を取り除くのに大変だったからね。



「この純度にこの品質は……ありえない、ありえないぞ。おい、小僧、これをわしに売れい。高値で買取りしてやろう」


 ボクが返事する前に、宿のお兄さんがボクとお爺ちゃんの間に割り込んできた。



「お客様、当宿は金塊と金貨を交換するサービスをご提供しております。できましたら交換のほうは当宿にお任せいただきたく存じまして一割ほどの手数料はかかりますが、必ず最高値でお買取り頂けるようお約束いたしますので是非ともお任せ頂けないことでしょうか」


「うんいいよ、それはお兄さんに任せるね。もう疲れたから部屋へ行ってもいいかな」


「直ちにご案内させて頂きます……おい、案内してさしあげなさい……お客様、本日より当宿をご利用頂き、心よりお礼申し上げます」


 お兄さんは横にいるお姉さんに、ボクとイザベラを部屋へ連れて行くように言いつけたので、ボクらはついて行こうと歩き始めた。




「くわーっ! ムガライン! きさまはわしの邪魔をしおって……これはわしが買うんじゃ!」


「これはこれはテリアディ様、とんだ言いがかりはやめてもらおうか。お客様は我が宿にお任せするとはっきりとおっしゃられた。ここにいる皆さまもお聞きしているはず。テリアディ様におかれましては、オークションの際にぜひお越しいただきたいものですな」


「ムガライン! あれはわしのだああ!」


「はーはっはっは!」



 後ろのほうでお兄さんとお爺ちゃんがなにか言い争っているようだけど、どうしたのかな。まあ、関係ないからボクは部屋へ行くけどね。うん。



お疲れさまでした。

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