説話23 元魔将軍は緊急依頼を引き受ける
この村はわりと気に入ったけど、ハイポーションを大量に作り出した今、冒険者ギルドに目立った依頼もなく、ゴブリンとかはCランクのウェリアルさんが引き受けてるから、ボクは討伐の依頼を受ける気はない。だって、あいつらくさいからね。
でもここにいてもすることがないので、ボクがこの村を出ようかなと思ったときに、ナタリーさんの宿へ数十人の兵士がなんかお偉いさんとともに来ている。
「あら、領主様、今日はどういった御用でいらっしゃったのですか?」
「うむ。悪いなあ、いきなり兵士を連れてきて。ところでウェリアルはいないのかね? 冒険者ギルドに依頼をしたいのだがな」
お偉いさんはどうもこの領地の領主様のようで、少しも偉ぶったところがないところがボクは気に入ったね。魔王軍もそうだが、なぜかなにかの役職に就いた人はいきなり偉そうにしてくるので、ああいうのは大嫌いだね。
「ごめんなさいね、今はゴブリンの討伐で草原に出かけていますのでギルドにいません。なんらかのご依頼をされる場合はあたしでも受け付けはできますけど」
「それはまずったな。一歩足遅かったか……」
「はい?」
「ナタリー、よく聞いてくれ。草原でオーガの群れが出た、騎士団が行軍しているところを襲われたんだ。それで調査依頼をウェリアルに出そうと思ったがもう草原に行ったみたいだな。これはまずいな」
初めは呑気そうに領主様という人と話していたナタリーさんはオーガの名を聞いて、いきなり顔色が蒼白となった。
「……う、そ……領主様っ! 主人を、主人を助けてくださいっ! お願いしますっ!」
「お、落ち着け、ナタリー。これ、落ち着かんか」
ナタリーさんは領主様に掴みかかって、泣きながらウェリアルを助けるように懇願している。領主様はナタリーさんを宥めてるが、混乱する彼女を止めることができない。
「これが落ち着いてられますかっ! 主人はCランクの冒険者です。よく頑張ってもオークとやり合えるかどうか、それがオーガだなんて……う、ううう……」
「落ち着け、ナタリー。今は兵士に召集かけてる、集まり次第すぐに出発するつもりだ。相手はオーガ、人数がいないとまともに戦えん」
それでは遅すぎることを領主様もわかってるだろうが、目の前で泣き崩れる領民のために慰めの言葉をかけずにはいられなかったのだろう。
こういう人、ボクは嫌いじゃないなあ。
「その調査依頼、ボクが引き受けましょう」
子供みたいなボクの声に、この場にいる全員が唖然となった。
「ダメよ、スルト。オーガは危険だわ、うちのウェリアルでも……ううう……」
「君は誰かね?」
一応は止めてくれるナタリーさんがウェリアルさんのことを思い出してか、また泣き出した。領主様は訝しそうにボクのことを見てくるけど、こういう場合は簡潔な説明が必要と思うね。
「ボク、スルトだよ。ここの冒険者ギルドに所属しているDランクの冒険者です。先ほどのオーガの調査依頼を引き受けようと思いまして」
「Dランクか……君の顔を知らないがDランクにオーガは危険すぎる、しかも子供じゃないか君。依頼はちょっとな」
領主様はボクの身なりとランクを聞いて、依頼することをためらっているようだ。後ろのほうでも兵士たちが危ないとか無茶だとか騒いでるが、ここは怯んでる場合じゃないはず。
「ボクは駆け出しでも冒険者、依頼内容が危険かどうかの判断は自分でします。それより報酬の内容を聞かせてくれませんか?」
「う、うむ。これは当領地の緊急依頼だ。オーガの群れの在り処を示せたら金貨一枚、オーガは撃退なら白金貨五枚、討伐は一体に付きが白金貨一枚だ。オーガの素材は討伐した者が所有し、売る場合は状態に応じる。ほかに緊急依頼であるため、情報の有り無しにかかわらず、依頼を引き受けた場合は金貨一枚を支給する」
まあ、正直なことに報酬なんてボクにとってはどうでもいいことだよね。
それよりも一刻も早くいかなくちゃ。いくらオーガがお遊び好きとは言え、貧弱な人間の身体はそう長く持たない。ウェリアルさんがオーガに見つかったらの話だけど。
「わかりました。その緊急依頼はボク、このDランク冒険者のスルトが引き受けます」
お疲れさまでした。




