説話165 元魔将軍は武器を与える
ボクとセクメトは深夜になったら降伏した元兵士を連れて、進軍中の部隊へ噂をばら撒きに行った。
降伏した元兵士たちはいま、イザベラ村で畑仕事や自分たちが住む仮設住居を作ってるよ。独身者の多くはここで住むことを希望し、迫りくる二ヵ国連合軍と一戦を交えたい気勢をあげているね。
すでにメリルとガルスに鍛え上げられた勇者たちの最終奥義が完成した。
今日はアールバッツとエルネストに用事があったので二人をボクの部屋に呼んだ。
「スルト兄さん、用事はなんでしょうか」
「あにさま。なにか用があると聞いて、こちらに来ました」
ボクは異空間から取り出したものを渡す。
「はい。アールバッツは聖剣でエルネストが賢者の杖だよ」
「……」
「……」
おや? なんで黙り込んだのかな? 大勇者は聖剣を持ち、賢者は賢者の杖を使うのが勇者パーティの決まりと思うけど。
「どしたの?」
「いや……聖剣をはいって言われても……」
「そうですよ。こういうのはみんながいる前で、授けるぞとか! 魔王を倒せとか! なんかそういう儀式があるじゃないですか」
「ないよ、そんなの」
「……まあ、スルト兄さんですからね」
「そうだよ、アールバッツ。
そういうことをあにさまに期待する僕らのほうが悪いと思うよ」
おかしいことを言う子たちだね。
武器は武器だよ? ボクが儀式をやってそれで渡しても武器が強くなるわけでもないし、この子たちはなにを言ってるだろうね。
「これを渡されるということは……」
「やっぱり……」
「ほら、もうすぐ二ヵ国連合軍が来るからね。
一応は来ないとは思うけど向こうも聖剣と賢者の杖を持ち出すかもしれないから、そうなった場合にこっちも負けていられないんだ。
なんだって勇者が持ち物で負けちゃダメと思うのよね」
あらら? せっかく理由を言ってあげたのに二人が肩を落としちゃってるけど、どうしたのかな。
「なるほどですね。スルト兄さんはそういう発想をするのですね」
「緊張して損したよね、アールバッツ。
もうすぐ九年になる付き合いだけど、今でもあにさまの考えは読み取れないよ」
「うーん。きみたちの言ってることはよくわからないけどさ、もう立派な大勇者と賢者だからそれはきみたちに預けるよ。
というより、あげるよ」
「わかりました、聖剣はぼくが責任を持って預かります」
「あにさまの期待を裏切らないように頑張ります」
「うん。まあ、死なない程度ほどほどにね」
ボクは椅子から立ちあがり、いまやボクより背が高い二人の肩を叩いたんだ。
「よくここまで二人は頑張ってきた。
迷宮できみたちと出会えてよかったよ」
「……う、うう……スルト兄さん……」
「……」
ボクと背が変わらなかったあの時からすでに二人が成長しただけの月日が流れ、これから彼らは自分たちの力で世界を変えていく使命に燃えてることだろう。
たとえ彼らの寿命が尽き、この世界から消え去っても、ボクはいつまでも彼らのことを転移勇者とともに忘れずに覚えていてあげる。
それがボクを慕ってくれた子供たちへの礼儀だと思ってる。
――さあ、最終幕を迎えるための幕開けと行こうか!
お疲れさまでした。




