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説話128 賢者候補は元侍女を手懐ける

 すでに寮にはバルクスたちゴブリンの子供たちが住んでいるから、アウネはすぐに子供たちに迎え入れられた。


 特にエリアスは自分より小さな子供が来たことですごく喜んでいた。


 ――妹ができただってさ、よかったね。



「スルト様。お拾いになるのは構いませんが、あたくしに一言の御相談がないと色々と制服などのご用意が出来ません」


「ごめんね? 急なことだったからさあ」


 アウネはボクの手を握りしめながら、ボクとちょっとだけ不機嫌のマーガレットのことを交互で見ている。


()()()()、ごめんなさい……

 ()()()()とケンカしないで」


「――!」



 え? どういうこと? 今、アウネがヨチヨチ歩きでマーガレットの所まで行って、マーガレットの足に抱きついているよ?


 それよりアウネ、きみはしっかりと歩けたはずだよね? なにその同情を誘うような仕草は。


 それにボクはお父さんじゃないし、マーガレットはお母さんじゃないんだよ?



()()()! この子はあたくしたちの大事な子ですわ。

 しっかりと夫婦で仲良くこの愛の結晶を育てていきましょう!」


「違うからね? ボクとマーガレットは夫婦じゃないし、二人でアルラウネは作れないからね?」


「それじゃ、どういう子をお産みになられるのか早速ですが、お部屋のほうでお作り致しましょう。

 ささ、ご遠慮なさらずにお部屋のほうへご一緒に、ささ」


 スタスタスタ……スパーンッ




 アルラウネは強力な風系魔法の使い手にして、回復の魔法などの補助系魔法に長けていることは、魔族たちの間でよく知られてる。


 硬いツタを使った全方位攻撃はイザベラも苦戦を強いられたんだ。だからボクはアウネを聖女に育てようと考えていた。


 そう思っていたのだが……



 アウネは末恐ろしい子だよ。


 魔王軍の影の参謀と囁かれていたマーガレットを一瞬にして懐柔したよね。この麒麟児を聖女にしてはもったいないよ。ぜひとも賢者候補としてエルネストと一緒に賢者組の双璧で育成していきたい。


 ――うん、アウネの養育方針はそれで決定だね。



「あとでお外でお日様を当てに行こうね」


「うん! ありがとう、かかさん」


 まだ引っ張りますかそれ。はああ……




「あ、園長だ! こんにちはあ!」


「はい、こんにちは」


 フォックス族の子供たちは今の環境に慣れてきて、マルスたちと仲良く下園して寮に向かっている。


 ボクはねえ、あの子たちが勇者になるかどうかは自分で決めさせたいと思ってるのさ。


 開園時の108人の勇者候補にバルクス、レイミーにアウネの三人の魔族が加わって、今の勇者候補は111人がいるんだ。バルクスに出会って以来、これが天意というのなら必ずあと10人の勇者候補が来る。


 無理して集めるよりもボクはそれを天意に任せたいね。




 それはそうと新商品の開発を今からやってみよう。


 違う種類の植物を混合するわけだからね、これは比率が大事だと思うのね。


 試験を行うために大釜を使うのじゃなくて、薬草液と毒消し草液と二つに分けて、ここは小釜で煮詰めたらいいのさ。


 ――よし、作ってみるか。



 まずはすり潰してっと。


 次は煮詰めていくっと。


 二つともできたので後は配合の比率だね。まずは半分ずつで試してみよう、魔法っと。


 うん、毒消し草の味が強すぎてマズい。それに香りが良くない。これはダメだね。



 次は薬草液が六割で毒消し草液が四割、魔法っと。


 うーん、イマイチだね。毒消し草ってさあ、匂いがきついのよね。でもね、減らし過ぎると毒消しの効果が薄まりそうだよね。



 次は薬草液が七割で毒消し草液が三割、魔法っと。


 おっ? これは良さそうだけどまだ毒消し草の味がちょっときついね。ここからはちょっとずつ減らしていこうかな。




 できた……


 ついに新商品ができたよ! やったねっ!


 配合の比率は薬草液が七割六分で毒消し草液が二割四分、毒消しの効果が効いてポーションの味と香りを残しているよ。これなら自信もってエリックたちに売ってもらえるんだ。



 後ろに振り返ると机の上にボクの食事が置いてある。


 きっとマーガレットが持ってきてくれたんだね。ボクがこのように本気でなにかをするとき、彼女は絶対に邪魔をしてこないんだ。元とは言え、本当にいい侍女さんよね。


 ――ん? 書置きも置いてるみたいね、なになに? 読んでみようかな。



「ご無理なさらずにお体をご自愛くださいませ。

 あたくしは身を清めてベッドの中でお待ちしております……」


 よーしっ! 今夜は徹夜だね。


 頑張るよボク、おーーっ!



お疲れさまでした。

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