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説話126 元魔将軍は元侍女に怯える

 エリックたちにここで居てもらうことには理由がある。


 時々でいいから、子供たちにものを売ってほしいんだ。子供たちは大人になれば人々と接するようになるので、その時にちゃんとした経済感覚がないと他人とはうまく付き合えないと思うんだ。



 ボクは別に人間の国の物なんていらない、あんなのゴミばっかりだよ。


 でもね、例えば魔王様を倒したら、子供たちはボクたちがそばにいない環境で自分たちでの人生を営むようになるんだ。そのために人と付き合うこともあの子たちには必要さ。


 そういうことをアダムスから言われたね。


 まあ、考えてみればそれは確かだね。



 ここには土地がある。


 人間の国々では暗黒の森林は魔物がいっぱいの伝説は遠く昔からあることはアダムスから聞いたんだ。


 大昔は勇者の修行の地で知られたそうだが、魔王の討伐を召喚勇者がするようになってからここへくることが無くなった。暗黒の森林は魔物たちがひしめく森であることだけが伝説となったらしい。



 カラオス王国もワルシアス帝国もこの土地を統治しようと考えたみたいだが、土地に作物が育ちにくいこと、暗黒の森林があることでここ一帯を開拓してもうまみがないと思った貴族たちはこの土地の領主になりたがらないみたい。



 一度だけワルシアス帝国は国の主導によって開墾団を派遣したらしいが、開拓事業が困難を極めた上に、暗黒の森林で狩猟してた開墾団の護衛役である騎士団が森の中で魔物との戦いで壊滅してしまった。


 その結果、開墾団は撤退し、それ以後はカラオス王国もワルシアス帝国もここを放棄してしまっている。


 そういう歴史をアダムスから聞いたんだ。



 ここの土地はボクが王都から魔力の流れを引き込んでから作物が育つようになった。


 今まで呼ばれしのオーブがどれだけ魔力を無駄使いしたことがこれでよくわかる。人間が森の魔族と争わない限り、交流を築くこともできるとボクは考えてる。



 ここに人たちが来てもいいとボクはそう思うのよね。


 村なり、街なり、みんなが住める場所を作ればいい。人々の暮らしを勇者候補たちに見てもらいたいから。



 賢者のヨシダは言った、革命は人から始まると。


 みんながしっかりと自分の意識を持てば世界は変わる、だからまずは人から変えていかねばならないと。


 なんのことだろうね、よくわかんないや。



 でもね、確かにここには人が必要なんだ。


 魔王軍では魔王様に魔将三人衆であるボクたちが魔族を変えた。降伏にせよ、服従にせよ、魔王領に住む魔族が魔王軍に入ったことで魔族の生活と意識が変わったんだ。



 ボクがここで勇者を育てても人の国を変えることはできないし、する気もない。


 それはボクがするんじゃなくて、勇者たちが人々を変えていくことが大事だから。そのためには勇者たちに賛同する人々が必要なんだ。



 一握りの人が革命を起こす。それが起爆剤となって社会全体へ波及していく。そういうことをヨシダは拳を握りしめて言ってたね。


 そう言えばヨシダはソウリというえらい人になりたい。自分の国を変えたいと移動中も暇があればなにか一所懸命お勉強していたね。


 ――頑張れヨシダ。


 きみが聖女のナルミがよく口にするアイアムソウリってやつになれるといいね。



 人間たちが少しずつ国の在り方を変えていく。それでいつか現在の魔王領も含めて世界が変わればいいとボクは思う。


 でも、そういうのは全ての種族が自分たちですべきことなんだ。


 ボクがすべき使命は一つだけ、それは魔王様を倒すことだ。




 進む道が決まったということで、ボクは今の自分がしなければならないことに目を向けるべきのよね。


 フフフ……倉庫十棟のポーションが完売したんだ。


 ――やったね!



 さっそくだが補給をしなくちゃ。


 サッサと倉庫十棟分のポーションを作らないと、エリックたちだって売るものがなくて困っちゃうじゃないか。今からでも薬草の収穫と苗植えにかからなくっちゃね。まあ、エリックはなぜかいつもポーションの数を見ては引いたけど。


 ――なんでだろうね? まっ、いいや。畑に行こっと。 フフフ~ン。




 そういうわけで薬草の畑にやってまいりましたがマーガレットさんがすごい目付きで睨んできたね。


 これが仁王立ちってやつだろうか? そういえば仁王さんという人はどこのだれかを転移勇者から教えてもらわなかった。



「スルト様? もうすぐ昼食のお時間ですが、よもや今から薬草の収穫などと戯言を申されるおつもりはないのでしょうね?」


「……いや、10分だけしようかなあって」


「……」


「……寮に戻ってご飯を食べます」


「……」


 ――無言です。マーガレットさんがボクの後ろを無言でついて来ています。だから脱走は到底不可能です。


 お昼御飯、食べようかな。



お疲れさまでした。

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