説話105 元魔将軍は元侍女と真剣に話し合う
深夜に魔法の授業に使う教材をまとめてたボクがそろそろ休もうかなと思ったときに、扉からノックの音が小さく鳴ったので、扉を開けてみるとマーガレットがそこに立っていた。
「こんな夜更けにどうしたんだい? 交尾ならしないよ?」
「……」
――ん? マーガレットがいつになく真剣な目をしてるね。
これはボクに大事なことを伝えたいか聞きたいときの表情、子供の時から彼女を育てたボクならわかるんだ。
「入っておいで、なにか飲みたいものある?」
「……じゃあ、ハチミツ牛乳を頂きたく存じます」
――おや? ハチミツ牛乳と言えばマーガレットが子供の頃に一番好きだった飲み物だよね……
マーガレットはボクにとても大事な話があるとこの瞬間に理解した。
場合によってはボクとの一戦を辞さない覚悟なんだね。
さて、話を聞いてあげようか。話し合いが出す結論でマーガレットを捕まえなくてはいけないかも。
机の上に置いてるハチミツ牛乳に手をつけないマーガレットは、身体に魔力を込めながらボクに聞いてくるんだ。
「魔王様をお倒しするおつもりですか?」
「そうだよ」
そりゃわかるよね、わからないほうがおかしいよ。イザベラじゃあるまいし。
だって、子供たちが受けてる授業の内容は強者を育てる計画のようなもの。
――対魔王戦のね。
「――なぜですか? スルトは魔王様を敬愛しているんじゃないの?
なぜそのスルトが魔王様をお倒しになるわけをあたしにも教えてほしい」
「わかった。今からそれをお前にも伝える。
その後でどうするかは自分で判断しろ。ちなみに敵対するなら捕まえちゃからそのつもりで」
ボクとマーガレットは彼女が子供の頃に使ってた話し方に戻っている。
お互いにわかってるのさ、対立する前は昔と変わらない二人の仲で語り合いたいと。
――さあ、彼女に伝えてあげよう。
この元魔王軍の最高幹部にして世界を憂う一人の魔族がずっと抱いてきた思いというものを。
「マーガレットは世界をどう思う?」
「……歪んでいて、魔族は自らの努力を忘れて、魔王軍の伝令にしがみつき、言われたこと以外は建設的なことなんてなにもしない。
まるで明日が見えない世界だと昔からスルトに教えられた。
自分でもそうだと、目と耳で確認した」
「そだね。魔王領はさあ、平和そうに見えて実はおかしい。
魔王領が今日まで変わらずにいられるのは魔王様と魔将三人衆がいてのこと。
――ボクたちが魔王領の平和を作り続けてきたんだ」
「はい」
「ねえ、マーガレットに聞くけど、もし魔王領に魔王様と魔将三人衆がいなければ、どうなってると考える?」
「今でも混沌とした場所と思う。
我と思う魔族が力任せで戦い、力無き魔族が虐げられて行き場を失う」
「そうだ。それではボクが見てきた人間の国々となーんも変わらないんだ。
ボクたちはそんな上辺だけが美しい世界に生きていて、それは女神と男神、それに暗黒神が天地創世したときに願われた世界とかけ離れてる。
そんな世界にボクたちは生きているんだよ」
「それと魔王様をお倒しになるとはなんの関係があるの?」
マーガレットが核心についてきたね。
「魔王様の存在こそが元凶。
魔王様を倒さない限り、この世界は先へ進められないんだ」
「……」
そうなんだよね、マーガレットは魔王様の真のお姿を知らない。この際だ、彼女にも教えてあげよう。
――魔王様の本当の恐ろしさをね。
お疲れさまでした。




