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63/66

63 始動7

 ソウヤのメガネに内蔵されたカメラが善吉の姿を捉えると、彼は小さく頷いた。その眼は「いつでも突入できる」と言っている。

 でも、まだタイチョーたちの工作は完了していない。もう少し時間を稼ぐ必要がある。会話を伸ばして男の注意を引かなければならない。


『一つ、よろしいですか?』


 慎重に踵を返したソウヤは窓ガラスを背にした。


『……なんだ?』

『飛び降りる前に爆発しては困るので、ライターを床に置いてもらえますか?』

『ダメだ。ライターは離さない』

『ではガスを止めてもらえますか?』

『それもダメだ』

『なるほど……。あー、えっと、その、しかしなんですね、教職員でもAIUに入ることができるのですねー』


 会話のネタが尽きて彼の口調があからさまな棒読みになる。


『当たり前だろ。AIUは誰でもなれる、どこにでもいる。教師だって会社員だって、自衛隊員だろうと警察官だろうとな! 僕の仲間はどこにでもいるんだ! 何食わぬ顔で社会に溶け込み、冥府へ還るその時を待っている! きっとお前らの中にも僕らの仲間は潜んでいるぞ! 恐怖しろ! 怯えろ! ひゃはははっ!』


 男は腹を抱えて爆笑した。おクスリが回っているようだ。

 そして、おそらくもう少しのはず……。もうすこしだけ時間を稼ぐ必要がある。


『あー、えーと、それから、もしもAIUのボスがあなたの望むような人物ではなかったとしましたら、あなた様におかれましては一体どうするおつもりなのでしょうか?』


『そんなはずがないじゃないか! 絶対に最高に決まっている!』


 唾を飛ばしながら男は握りしめたライターを突き出してきた。


『隊員さんよぉ……、お前さっきから五月蠅いんだよ。お前は早く死ねばいいんだ! ノロノロやるなよウスノロ! 早く死んでくれよ!』


 ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ――。


 電子音が鳴り響いたのは、男がライターのヤスリに指を掛けた正にそのタイミングだった。


 

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