58 始動2
隊員たちの会話は常にオンラインで司令官のヘッドセットに送信されるようになっている。
『それにしても明らかな人選ミスだな。「こんなアホ面がSCARの隊員なのか?」って舐められるぜ』
善吉の皮肉に「ぬかせ」とソウヤは返した。
『タイチョーからお前にプレゼントだ。これで少しは特殊部隊の隊員らしく見えるだろうってよ』
善吉が防弾ベストのマガジンポーチから取り出したのは、普遍的な黒縁メガネだった。
『フレームに小型カメラが内蔵されている。お前の給料三か月分くらいの価値があるから絶対に傷付けるなよ』
『はいはい、分かってますよ』
『おい、今日……あいつとどこに行ってたんだ?』
『あいつ? あいつって?』
『あいつはあいつだ』
『……ああ、千鳥のことか?』
突然、ソウヤに名前を呼ばれた私の心臓が跳ね上がる。
『ちっ、まあいい。行くぞ』
『あん? 変な野郎だな……』
ソウヤが呟き、メガネフレームに内蔵されたカメラ電源を入れると、四分割されたディスプレイの右下、カメラ4と表示された画面に烏丸視点の映像が立ち上がる。
階段を昇り始めた善吉は何かを思い出したように立ち止まり、振り向きざまにLEDライトを放り投げてきた。掌サイズの小型ライトは緩やかな放物線を描き、ソウヤの手の中に収まる。
『護身用だ。持っていけ』
『ただのフラッシュライトだろ?』
『目くらましにはなる』
善吉のカメラに顔を歪めるソウヤが映った。
『妙に親切だな。心を入れ替えてオレを敬うようになったのか?』
『阿呆が、SCARのデビュー戦なんだぞ。お前にヘマされたら俺の汚点にもなる。しっかりやれ』
そんな捨て台詞を吐き、彼は再び踵を返した。
『ふん、口の減らねえヤツだ』
少女の命が掛かっているというのにまったく、この二人は……と、私は深い溜め息を吐いたのだった。




