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57/66

57 始動

 交渉役の警察官がトラメガを校舎に向ける。


 SCAR隊が到着したこと、これからそちらに向かわせる旨を説明するとカーテンの隙間から頬の痩せこけた男が顔をのぞかせた。神経質そうな目をギョロリと動かした男は、すぐに窓から離れて音楽室の奥へ戻っていった。ガスが充満した部屋の中にいれば狙撃されないと高を括っているのか、カーテンは開けたままだ。


 現地指揮本部に残ったSCARのメンバーは私ただひとり。タイチョーと興梠さんは工作班として、ソウヤと善吉は潜入班としてすでに校舎に向かっている。

 本来の指揮官である警察消防の幹部たちは、私の動向に目を光らせている。新設部隊の実力を見定める意味もあるが、彼らは上層部からの命令といえ現場の指揮権を新参者に委譲することに納得がいっていないようだ。


 しかもこんな小娘だしね……。


 私はタイチョーが設定してくれたノートパソコンを習ったとおりに操作して、画面を隊員たちのヘルメットに取り付けられたカメラ映像に切り替えた。

 善吉のカメラが軽装のソウヤの姿を捉える。


 ソウヤは武装していないことを強調するため上着を脱いでTシャツ姿になっている。

 彼は容疑者から見えるように昇降口から校舎に入り、音楽室に向かって階段を上がった踊り場で裏口から進入してきた完全武装の善吉と合流したところのようだ。


『クロウからスワン。ポイントアルファに到着、予定通りイーグルと合流。なお、周囲の測定結果にあっては可燃性ガスを検出、五パーセントLEL』


「了解しました。作戦を継続してください」と私は司令官っぽく応答する。だが、言っていることはなんてことのない無難なセリフだ。


『気密性の高い音楽室を選ぶなんて意外と考えてやがる』ソウヤは言った。

『ああ、プロパンボンベをわざわざ運び込んでいるくらいだ。油断するなよ』


 そう言いながら善吉は面体マスクを顔に当てた。プシュッと音がなってマスクの内側にエアーが流れ始める。


 



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