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53 初陣4

 私たちを乗せた消防ヘリは機首を北に向けて飛翔を開始。仕事モードの烏丸さんが「現場の情報を」とクルーに告げた。


「八王子の中学校の音楽室においてサバイバルナイフを持った男が同校の女子生徒一名を人質にとって立てこもっている。所轄の警察官が音楽室の外から被疑者の説得を試みているが、室内からタマネギが腐ったようなガス臭がするとのことだ。何らかの方法でガスを発生させていると思われる」


 答えたのは烏丸さんと旧知の仲の新堂氏だ。インカムを通して私にも彼の声が伝わってくる。


「タマネギ臭ってことは市販されているガスか」烏丸さんは言った。

「ああ、音楽室ってことはガス栓はないからプロパンボンベを運び込んだんだろうな」新堂氏が答える。

「被疑者からの要求は?」


「特殊テロ対応救難隊、SCARを現場に連れてくるように要求しているそうだ。話はそれからだと」


「オレたちを? 試験運用中のSCARを知る一般人なんて極わずかなはずだ」


 烏丸さんの問いに新堂氏は大げさに肩をすくめた。


「そりゃあただの民間人じゃないんだろ? テロリストだ、もっと言えばAIUかもしれん」


 じょ、冗談でしょ? いきなりテロ組織AIUと対決? それはちょっと勘弁してほしい。それにしても――。


「機密情報が駄々洩れだな。とにかく了解した。さて、どうしたものか……」


 本来なら緊張する場面だけど、私の意識は別にあった。 

 耳元で交わされるバリトンイケメンボイスとソウヤの声のアンサンブルが、なんていうか極上で最高で至福でっす。もうこのままじゃ、私は……、わたしが――。


「限界を越えるのも時間の問題なの……」


 ボソリと本音が口から漏れていた。


「限界?」


 烏丸さんが隣に座る私に顔を向けた。私のうわ言はインカムマイクを通してクルーにも伝わっていたのだ。  


 ッ!? しまった!? 聞こえていた?? 恥ずか死ぬッ!


「……なるほど、それだ! さすが白城司令、毒をもって毒を制すってことだな、キャリアは伊達じゃないぜ!」


 声を弾ませて烏丸さんは眼を輝かせた。


「へ?」


 意味が分からず混乱する私を置き去りにして彼はスマホを取り出す。


「タイチョーには俺から司令官の作戦を伝えておきます。よろしいですか?」


 さ、作戦? 一体なんのこと? 私の限界が立てこもり事件を解決するの? よく分からないけれど、もうこのビックウェーブに乗るしかない!!


「伝えちゃってください!」




 


 

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