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50 初陣

「もしもし……ええ、はい、一緒にいますよ。なにかあったんですか? ……え? はい、なるほど……了解しました。白城司令には自分から伝えておきます」


 通話相手との幾度かのやりとりを終えて電話を切った烏丸さんが私に顔を向けた。その顔は仕事モードに切り替わっている。初めて彼と会ったときと同じ射貫くような眼だ。


「白城司令、八王子市の中学校で、男が生徒を人質に取って立てこもる事件が発生しました。室内でガスを発生させているとの情報があるため、SCARに出動要請です」


「へ? 出動要請?」


 疲れと糖分が足りないためか、彼の言った単語が頭に入ってこない。


「五分ほど前にヘリポートから消防ヘリがこちらに向かって飛び立ったそうです。あと数分で到着すると思います」


「ちょ、ちょっと待ってください! 出動って!? まだ心の準備が!」


「大丈夫、今から現着するまでに準備すればいい」


「そんな!? 今からってSCARはまだ試験運用中なんですよね!?」


「試験中で運用中だから、そりゃ対応事案が発生すれば出動要請は入るし、実戦投入して成果を上げないといけない。着陸スペースがないからホイストで吊り上げになる。あっちに移動するぞ」と烏丸さんは富士山の方を指さした。


「なぜ移動するのですか?」


「東風だからヘリは西から進入してくるはずだ」


 いくらも待たずにプロペラが空気をつんざく音が近づいてきた。遠くに見える赤と白の機体は消防のヘリコプターだ。


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