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48 休日とデートとトレーニング8

「……ソウヤ」


 その名を呟いた彼のイントネーションは疑問形ではなく、普段から口にする単語のように自然だった。


「い、今はもう辞めちゃってグループにはいないんです……。わたしは彼のことが一番、す、好きでした……」


 もう彼の顔をまともに見られない。もう後戻りはできない。後は彼の返事を待つことしか私にはできない。


 私の視界の端で烏丸さんが視線を泳がせた、そんな気配がした。


「……もしかして、俺を避けていたのって……」


 そう言いかけて彼はすぐに首を振り、「いや……、まさかそんな訳ないよな」と小声でささやいた。


「か、烏丸さんは知ってるんですね……。スーパーデューパーのこと……」


「あー……、うん、妹がファンだったんだ」


「そう、なんですか……」

 

 はぐらかされてしまった。

 明確な線が引かれた気がした。彼は自分がソウヤであることを言わずに隠した。それが彼の意志なのだ。ならば、私は彼の意志を尊重する。それが本当のファンのあるべき姿だ。


 でも、グループを脱退した理由は知りたい。なぜ人気高騰中のグループから突然脱退したのか――。


「……烏丸さんは消防官だったんですよね?」


「ああ、うん」


「どうして消防官になろうと思ったんですか?」


 その質問を告げると彼の顔つきが変わった。 

 とても悲し気で、儚げで、辛そうな顔をしている。


「もうあんな思いを誰かにさせないために……」


「あんな思い?」


「八重洲の悪夢、それが消防官を目指したきっかけだった」


「……私も当時、ニュースで見てました。たくさんの人が亡くなったって……。あの頃の私は画面の向こう側の出来事が現実とは思えませんでした……」


「白城司令はあの事件の詳細については?」


 司令官なら知っていて当然なのだろうけど、ここで変に見栄を張っても仕方ない。


「いえ、恥ずかしながらニュースやネットで得た情報だけです」


「じゃあ、少し話そう。あのとき何が起こったのか、知っておいた方がいい」


 そして、烏丸さんは公安機関しかしらない事件の裏側を語り始めた。



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