47 休日とデートとトレーニング7
よろけた私は近くにあった大きな石にぺたりとお尻を付けた。
「少し休憩しようか」
そう言って私の隣に腰を掛けた彼は、リュックから水筒とステンレスのマグカップを取り出して、香り立つコーヒーをカップに注いでいく。
「ブラックでも平気か?」
こくりと私はうなずく。
コーヒーで満たされたマグカップを差し出され、両手で受け取った私は湯気が立つ琥珀色の液体にふぅーと長く白い息を吹きかけた。
「……」
なにやら視線を感じる。さっきから烏丸さんが私をじっと見つめているのだ。気になってコーヒーに口を付けられない。
「な、なにか?」
「あー……、いや、そのスポーツタオルって」
彼は私の首に掛かるマフラータオルを指さした。
それはスーパーデューパーのロゴがプリントされたオリジナルタオル。いつも愛用していたためうっかり持ってきてしまったことに私はやっと気付く。
「スーパーデューパーだよな?」
「え?」
あれ? これはどういう振り? 自分がメンバーだった事実を隠す気がないってこと?
それともただ聞いただけ?
実は言うと、私の方はまだ心の準備ができていない。
元スーパーデューパーの彼に自分がファンだと打ち明けることによって、どういうケミストリーを生み出してしまうか分からない。
私がソウヤのファンで彼が自分がソウヤと告げた瞬間に、上司と部下という関係からファンとアイドルという関係に変換されてしまう。
それは非常によろしくない。立場が逆転すれば、互いの態度に必ず現れる。他の隊員に気付かれてしまう。そうなれば、私は司令官を続けることはできない。
そのとき、私の脳裏に選択肢が現れた。
【はい、その通りです。そしてあなたはソウヤですよね?】
【はい、その通りです。私はソウヤというメンバーが好きでした】
【いいえ、友人から貰った物なので知りません】
どうしよう……。無難なのは間違いなく3番目だ。
彼が自分の口から言ってくれるまでは、彼がソウヤだって気付いていないフリをした方がいいのかもしれない。
でも、そうじゃないとしたら――。
「……はい、学生のときからずっと好きです……」
「へぇ、そうなんだな」
素っ気なく彼は言った。まるでそれ以上は興味がないと言われているようで、私の胸はチクリとした痛みを覚える。
私は少しだけコーヒーを口に含み、ごくりと飲み込んだ。
「……その、わ、わたしはソウヤが推しでした……」
私が選択したのは、告白にも等しい選択肢だった。




