45 休日とデートとトレーニング5
「手伝うって?」
「……トレーニングです」
「……」
そう伝えて私は返事を待った。彼の沈黙する時間がとても長く感じる。
「あ、ああ、別にいいぜ。良かった……、あんたに嫌われているのかと思っていた」
安堵するように烏丸さんがはにかんだ。普段のクールな彼とのギャップに胸がキュンと鳴く。
彼の笑顔を見たのはこれが初めてではない。だけど、仕事のときよりもプライベートの方が一段と感情豊かで愛らしくて、ひとつ年上だけど年齢よりも幼く見える。
「じゃあ、やるか。ベンチプレス『から』でいいのか?」
「は、はい!!」
はわわわわッ!? ソウヤとトレーニング!? 夢みたい! 夢じゃない!? ソウヤのプライベートレッスン!! これってサイコーじゃない!!?
一時間後――。
「よし、これでラストだ」
「ふぅ、トレーニングで汗を流すって気持ちいいですね」
「千鳥は努力家なんだな、見直したよ。頑張る女の子って、カッコイイよな。俺、好きだぜ……」
そう告げた彼はタオルで私の首筋の汗を拭った。
↑ここまでが理想。
↓ここからは現実。
「ぜーはー、ぜーはー……」
「ラスト一回、気合い入れろ!」
「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」
「おっし、よく頑張った! お疲れさん!」
「ぶはっ! げふっ! えふっ! ば、はぁはぁはぁ……」
う、腕がぁぁ……死ぬぅぅ……。筋肉が引きちぎれそう……も、もう上がらない……。
……明日が休みで良かった。それにしても烏丸さん……、容赦がないのですよ。運動音痴の女子相手に一切の妥協がない……。でも、そんな全力のソウヤも好き……。
とろんと雌を顔になっていたであろう私に彼は「明日って空いてる?」と尋ねてきた。
「……明日ですか?」
え? なに? これってまさかデートのお誘い?
計画ではせっかくの休日だから家に引きこもってゲームしようと思っていた。けど赤城夫妻の手前、いきなり引きこもりモードを披露する訳には行かない。
だったら予定があって外に出ていた方が気持ちは楽だ。なによりソウヤからのお誘いを断るなんてノー!!
ここまで僅かコンマ五秒。
「一切の予定はありませんわ!」




