44 休日とデートとトレーニング4
「あれ? あんた、もしかして……」
烏丸さんは顔を近づけてきた。顔を背けた私の横顔をじっと見つめている。
「ひ、人違いデース」と言って鼻水を袖で拭う。
「まだ何も言ってないぞ」
「た、他人のそら似デース」と言って反対の袖でヨダレを拭った。
「どちらの他人だ?」
「……」
「白城司令?」
「そ、そんな人は知りまセーン」
顔を背けたままキリッと低い声で誤魔化そうとする私に、「スニーカーに名前書いてあるぞ、『しろじろ』って」と彼は言った。
足元を見ると履き慣らされたスニーカーの踵部分に油性マジックで『しろじろ』と書いてあった。
「はうっ!?」
私は頭を抱えて蹲るように背中を丸めた。書いたのはお母さんだな!? お母さんのほじなし(ばか)!
「あんたもここの会員だったんだな。よく来るのか?」
証拠を突きつけられて観念した私は、ようやく烏丸さんの方に顔を向けた。涙で目を潤ませたまま小さく頭を横に振る。
「いえ……、その、今日が初めてなんです……」
「そうか……なあ、司令さ、俺のこと避けてるよな? 俺、あんたに嫌われるようなことしたか?」
「いえ……、そんなことはない、です」
「……まあ、それならいいけどさ。じゃあな、気を付けろよ」
腑に落ちないといった具合の声色で、彼は踵を返す。
ダメ……、彼を行かせたらダメ……。嫌いじゃないことをちゃんと伝えなくちゃ、このまま誤解されたくない! ソウヤに嫌われたくない!
勇気を出して誤解を解くのよ!!
私は手を伸ばして烏丸さんのTシャツの裾を掴んだ。
「あの……」
振り返った彼の顔を上目遣いで見つめる。
不意に呼び止められて動揺しているのか、目を見開いた彼の頬が仄かに紅くなった気がした。
「な、なに?」
「その……、もし迷惑でなければ手伝ってもらえますか?」
私は彼の目を見つめながら言った。




