43 休日とデートとトレーニング3
翌日、朝早く起きた私は赤城一家の朝食を作ってから家を出た。向かったのは銭湯から少し離れたトレーニングジムだ。
上田の発言によると、SACRの隊員たちは司令官に自分たちと同等の知識と体力を求めている。ならば私は彼らに認められるよう少しでも鍛えるしかない。
正直言って体を動かすのは得意な方ではない。私はクラスにひとりはいるメガネの地味っ子、流行のファッションやメイクにとんと興味がないオタク女子だった。
そんな私がトレーニングウェアなど持っているはずがなく、白いブラウスに丈の長いベージュのフレアスカート、中学生が履いていそうな学校指定っぽい白スニーカーを装備している。どれも着古した感じのヨレヨレで生活感が溢れまくっている。
ジムの姿見鏡に自分の姿が映り込む。
「ひひ……」
卑屈な笑みが漏れた。
そこには牛乳瓶の底をくり抜いたような分厚いレンズの入ったメガネを掛けた地味の化身のような私がいた。地味もここまで突き抜ければ、もはや〝わびさび〟の境地ではなかろうか。
しかしながら、やっぱりタイチョーに勧められるようにコンタクトにしようかしら……。
私だってちゃんとした格好をすればそれなりに映えるんだからネッ!!
と、自分に言い訳しながらトレーニングを開始した。
各種のマシンの使い方が分からないから、とりあえず色々なマシンに触れては説明書きを読み込んでいく。
ジムを一巡した私は、比較的手軽にできそうなベンチプレスをやってみることを決めてベンチ台に寝転んだ。
まずは何も重りを付けずに、シャフトだけを持ち上げてみる。
シャフトをラックから持ち上げて胸の真上に持ってきたその拍子に、すこーんと肘が折れ曲がり私のお世辞にも豊かとはいえない胸の上に落ちた。
「んぐっ! んんーっ! んーっ!」
パニックになった私は声にならない声を出して足をばたつかせる。真上に持ち上げようとしても持ち上がらない。なぜかヤジロベエみたいにバランスが取れてしまっている。
――やばい、息が!? 胸が圧迫されて苦しい……。重い……、どうやってどけたらいいの!? このままじゃ……。
そのときだった。誰かが私の元へ駆け寄ってきてシャフトをひょいと片手で持ち上げてくれたのだ。
「げほっ! はあ、はあ……」
重りから解放された私は体を起こして胸を抑えた。鼻水とヨダレが両方出ている。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「ず、ずみません……、ありがとうございました……げほっ」
あれ、この声は――。
「ん?」
助けてくれた人と目が合った私は、即座に顔を背けた。
――烏丸疾風!? なんでソウヤがここに!!?




