40 司令官たる者6
一騒動あったけど、常識人だと思っていた陣野さんの意外な一面を知ることができた。いや、知らない方が良かったのかもしれない。できれば彼には、ほわっとした癒やしの存在であって欲しかった。やはりSCARのメンバーは一筋縄ではいかないようだ。
私はお店の前で陣野さんにお礼を言って帰路についた。
現在は、駅から銭湯までの夜道を歩いている。
もうすぐ午後十一になるけど、週末とあって、この時間でも駅前の人通りはそこそこあった。それでも駅から離れるにつれて徐々に人影はまばらりなって減っていく。
まだ慣れない道を夜ひとりで歩くのは、やはり不安だ。
銭湯まで残り百メートルを切ったときだった。見られているような、ねっとりした視線を背中に感じて立ち止まる。
後ろを振り返って確認してみたけど誰もいない。人影のない夜道を電灯が照らしている。
私は再び歩き出した。いくらも経たずに後ろから見られる気配を感じ出す。耳に意識を集中すると、足音と一緒に息遣いが聞こえてきたのだ。
はぁ、はぁ、はぁ――。
何かがいる。誰かが後を付いてくる。
怖くなった私は走り出した。すると足音が大きくなって聞こえてきた。どんどん距離を詰めて来る。
泣きそうになりながら後ろを振り返ろうとした私は何かにぶつかった。
「あうっ!?」
弾かれてバランスを崩した私の肩を誰かがぐっと掴んで支えた。
「いたた……」と私はぶつけた鼻を抑える。
「お前……、こんな時間までなにやってたんだ?」
目の前にいたのは善吉だった。
彼の顔を見た途端、安堵した私の目から涙が込め上がってきた。
「なっ!? どうした! なにかあったのか!?」
「わからない……」
「はあ??」
「誰かに追いかけらていた気がして……」
「追いかけられた? 誰もいないぞ??」
私は善吉の手を握ったまま、恐る恐る後ろを振り返った。
――誰もいない……。
ほっと息をついた私の肩から善吉は手を離して頭を搔く。
「変なヤツがいないか見回りに行ってきてやる。お前は風呂に入ってこい」
彼のその一言で私はすごく安心することができた。
「うん……ありがと」
私は彼に背中を押される形で銭湯の暖簾をくぐったのだった。




