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39 司令官たる者5

 陣野さんの後に付いてやってきたのは、渋谷にあるレトロな雰囲気のアメリカンダイナーだった。広すぎず狭すぎない個人経営のお店のようだ。


 回らない寿司や高級料亭に連れて行かれても困っていたところである。あまり高価だと気兼ねしてしまう小市民な私には、これくらいの方が肩肘張らず食事に集中できる。


 初めて飲食を共にする男の人の前で、大きな口を開けてハンバーガーを頬張るのは気恥ずかしいけど、陣野さんの容姿のおかげで、羞恥心はそれほどなかった。

 それでもビールを乾ききった喉に流し込んで「かぁ〜、うめー!!」とはさすがに出来ないので、私はコーラで乾杯した。

 

 食事をしながら会話もそこそこ弾んできたので、「陣野さんってホント綺麗ですよね、女の人と間違われませんか?」と、そんなセリフを私が脳内で用意していた正にそのときだ。


「おねーちゃんたちぃ、俺たちと一緒に飲まなーい?」


 語尾にウェ~イと付きそうな、いかにもやから風の男たちが声を掛けてきた。輩は二人組で、こちらを女子二人だと思い込んでいるようだ。


 おお……、やっぱり女子にしか見えてないんだなぁ。


 なんて思っていたら陣野さんが席からすっと立ち上がり、声を掛けてきたやからの腕を鮮やかに捻り上げたのだ。


「いでででっ!?」


「誰が公爵令嬢みたいだって? このチンカス野郎が……」


 陣野さんは低い声でドスを効かせる。


「!?」


 輩たちの頭上に!?マークが点灯する。もちろん私もびっくりして固まった。ジキルとハイド並みの変わり様、ついでに公爵令嬢みたいとは言っていない!?


「男かよッ!? いでででっ! 離せこの野郎!」


 輩が騒ぎ、他のお客さんがこちらに注目し始めたところで陣野さんは手を離した。


「……おい、行こうぜ」

「ちっ……」


 恨めしげな目付きで彼らは、逃げるように店から出て行った。


 陣野さんにとって、容姿をからかわれたり女子に間違えられたりするのは禁忌のようだ。

 危なかった。輩さんたちのおかげで余計なことを言わずに済んだ。


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