38 司令官たる者4
「ああぁ……」
司令官室に戻ってきた私はデスクに突っ伏し溜め息を吐いた。
タイチョーの模範演技を見て痛感した。
いや……、最初から知っていたけど私が指揮を執るには基本的な知識が足りない、経験が足りない、何もかも足りない。
訓練とはいえ、次から指揮を執るなんて無理だよ。
そこまでの覚悟はありませんでした、なんて言える雰囲気ではなかったのですよ……。
それでも、私のやり方でやると啖呵を切ったのは私だ。テロがいつ起こるかなんて分からない。試験運用中といえSCARは事件が起これば臨場しなければならない。待ったはない。やるしかないんだ。
その日は定時の終礼で業務終了となった。
明日は土曜日で休みということもあり、しばらく司令官室に残って今日のおさらいをしていた私が、部屋を出たときには午後九時を過ぎていた。
「あれ? 白城司令……」
エレベーター前でコードネーム【スラッシュ】こと、陣野継巳さんと鉢合わせる。
私服姿の彼は一段とスラッと線が細くて特殊部隊の隊員とは思えない。その上パッと見ただけでは女性にしか見えない。
「あ、えっとスラッシュ……じゃなくて陣野さん、まだ残っていたんですか?」
「うん、まとめておきたい資料があってね。司令も残業?」
「ええ、お尻に火を付けられたもので……」
私が苦笑すると、陣野さんはくすりと微笑んだ。
ほわっとした彼の顔に癒やされたそのとき、私のお腹がぎゅるると泣いてパっとお腹を抑えた。
ううぅ、恥ずい……。
「お腹減ったよね。一緒に夕飯でもどう? 奢るよ」
「え? 夕飯ですか?」
しかも奢り。果たして司令官が部下に奢られていいものなのだろうか……。
思案する私の心を読んだかのように彼は、「気にしないでいいよ。僕、医者だし家もお金持ちだから」と、すごいセリフをサラって言ってのけた。
なんだろう、まったく嫌味に聞こえないのが逆にすごい。これが本物のセレブなのか……。




